大腿骨骨梁の基礎知識

はじめに

みなさん、こんにちは。京都オステオパシーセンターOQ 副院長の大村颯太です。先日の勉強会の際には、大腿骨骨梁に対するリリースを教わりましたね。

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G von Meyerの解剖による大腿骨頸部内の骨梁パターンの表現。
引用:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2309499019848778?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

まず、私が思ったことは
「骨梁にアプローチするってどういうこと?? そんなこと徒手的に出来るの?」と素朴な疑問。

なぜなら、骨梁に対してアプローチするという考えは、私が知る限り、理学療法などには存在しないからです。私だけではなく他の参加者(理学療法士・作業療法士・鍼灸師)の方もそのように感じたのではないでしょうか?

ただ、実際に教わった評価やリリースを行ってみると左右差や個体差、リリース前後の感覚の変化を実感しました。
また、自分自身の骨梁の左右差が大きく、リリース後は、不思議と身体が伸びる、、、右側の股関節は以前から違和感がありましたが、骨梁も関係していたのでしょうか、、、また、このリリースはいつまで効果が持続するのだろうか、、??
次回の勉強会の際にS君に再評価してもらいたいと思っていますので、S君よろしくお願いします。

とりあえず、分からないことは多いですが、ひとまず、骨梁に対する基礎知識を整理していきたいと思います。勉強会に参加された皆さまの知識の補足として、ぜひご活用ください。

大腿骨骨梁の基礎知識

大腿骨近位部(大腿骨頭・頸部・転子部)は、股関節を支える重要な部分です。ここには「骨梁(こつりょう)」と呼ばれる網目状の骨構造が存在し、体重や筋肉の力を効率的に伝達・分散する役割を担っています。
骨梁は単なる「骨の中の模様」ではなく、力学的に意味のある構造です。

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アダムス、ウォード、フォンマイヤーによる大腿骨の内部構造

大腿骨骨梁には、垂直と水平方向の骨梁が存在しており、これらの柱は股関節の生理的活動中に生成される力を伝達すると考えられています。

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引用:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2309499019848778?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

大腿骨上部には、垂直・水平 2 本の骨梁柱があり、これが力学的に重要であることは古くから知られています 。
これらの内部柱の形状が、当時ロンドンで一般的だったガス灯を支柱に支える支柱の形状に似ていることに最初に気づいたのは、おそらくWard (1834)でした。彼は、大腿骨頸部内の骨柱が、ガス灯の支柱と同様に個別に張力と圧縮力を伝導すると提唱しました。力学的には大腿骨頸部内の骨梁がこのように作用するという考えは、現在まで広く受け入れられています。Wardによるロンドンガス灯の支柱内部の応力の描写と同様に、垂直の骨梁が圧縮力を伝導し、水平の骨梁が相互の張力を伝えるものと考えています。

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引用:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2309499019848778?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed Ward (1834)

しかし、この理論は、歩行中および股関節屈曲が制限されている際に股関節が伸展(直立)位置にあると考えられる場合には、かなり当てはまるように思われますが、股関節が完全伸展(立位および歩行)から完全屈曲(しゃがみ込みおよび登攀)へと移行する際に発生する時には大腿骨上部がどのように伝導するかは解明されていないことが知られています。
前回の実技では股関節屈曲位で力の伝達を見ていたので、下図のbの水平方向の骨梁は比較的容易に確認できそうですが、垂直方向への骨梁の力の伝達を確認するにはベクトル方向の工夫が必要そうですね。

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股関節屈伸のポジションにより圧縮力のベクトルは変化する
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2309499019848778?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

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. K Culmannによる、Graphic Staticsによって導き出された湾曲したフェアベインクレーン内の張力と圧縮力の線の模式図。
引用:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2309499019848778?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

また、垂直と水平の骨梁とは別に、大腿骨カルカーという幅広く、強固な骨板が存在します。カルカーは、大腿骨上部を横切る力に様々な形で関与していると考えられています。

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大腿骨カルカー
画像引用:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2309499019848778?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

骨梁への力の伝達を評価する際には、カルカーのイメージも持つと良さそうです。

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カルカーは2つの骨梁の基盤として機能し、それらと一体となった内部骨梁構造を形成し、大腿骨頭と頸部内で体重を支えるために必要な内部支持を提供すると推測されます。

こちらも骨内部のイメージを持つのに良い画像なので、参考になります。

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右大腿骨近位部のアダムス弓(AA)と大腿骨距骨(CF)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10267251/

機械的な力と骨梁構造の変化

骨芽細胞と破骨細胞の活性を制御する主な要因は機械的ひずみです。骨には、荷重の増加に耐えるために新しい骨を追加し、荷重の軽減または非使用に応じて骨を除去することによって、その形態を適応させる固有の能力があります。骨細胞が機械的荷重を感知し、骨量と骨構造の適応的変化を調整する仕組みは、まだ完全には解明されていないと言われていますが、骨にかかる機械的力が骨細胞によって検知できるいくつかの刺激を生成することは認められています。

機械的な力は、①骨基質自体の物理的変形 、②荷重によって引き起こされる小管ネットワークを通る小管液の流動、③小管チャネルの帯電表面を流れるイオン性流体から生成される電気流動電位などを引き起こします。

骨が機械的負荷に適応するための重要なステップは、物理的刺激を骨芽細胞と破骨細胞の活性を変化させる生化学的因子に変換することです。骨細胞では、流体せん断応力がイオンチャネルを介して細胞内カルシウム濃度の増加と細胞内貯蔵物の放出を引き起こします。いわゆるメカノトランスダクションです。

要約すると以下になります。
⇨機械的な力
⇨骨細胞による感知
⇨骨基質自体の物理的変形 、小管液の流動、小管チャネルの電気流動電位
⇨細胞内カルシウム濃度の増加と細胞内貯蔵物の放出
⇨骨梁と骨構造の変化を引き起こす

こちらは、徒手的な力について言及されているわけではありませんが、手によるリリースで近似したメカニズムが生じている可能性はあるかもしれません(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5101038/?utm_source=chatgpt.com

おわりに

今回は、大腿骨梁について調査してみました。参加者の皆様の学習に少しでも役立っていれば嬉しく思います。

これまで筋肉や関節に対する知識を学ぶことは多かったですが、骨について勉強する機会が少なかったので、とても新鮮な気持ちで学ぶことができました。一方で理解不足な面も多くあり、今後も注力する必要性を感じました。

今週末は神戸にて骨内病変のセミナーに参加してきます。今回学びながら、疑問に思うことが、たくさん出てきましたので、講師の先生に色々質問してこようと思います。また、セミナー後に、骨について私なりに気づいたことがあれば皆様にシェアしていきたいと思います。ぜひ、こちらの記事を参考に骨梁のイメージを膨らませながら、評価やリリースを続けていきましょう。

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