はじめに
「足のむくみが取れない」「ふくらはぎに血管が浮いてきた」「長時間立っていると足が重だるい」。このような症状を抱えている方の中には、下肢静脈瘤が隠れている可能性があります。
理学療法士として多くの循環器系の問題を抱える患者さんと接する中で、下肢静脈瘤は見た目の問題だけでなく、足のだるさ・痛み・しびれ・皮膚の炎症など、身体全体の循環動態に深く関わる疾患であることを実感しています。
オステオパシーの観点から見ると、「身体は一つのユニット」という基本原理に基づき、下肢静脈瘤も全身の構造と機能の統合的な問題として捉えることができます。
今回は、最新の病態生理に基づいた下肢静脈瘤の原因と、オステオパシーが提供できる自然治癒力を引き出すアプローチについてお話しします。
1. 下肢静脈瘤の病態生理学的理解
基本的なメカニズム:静脈弁不全と静脈高血圧
下肢静脈瘤は主に大伏在静脈(GSV)・小伏在静脈(SSV)・穿通枝(perforator vein)における静脈弁の機能不全が根本的な原因であることが分かります。
静脈弁逆流のメカニズム
- 一方向弁の機能不全による血液逆流
- 慢性的な静脈高血圧(venous hypertension)の発生
- 血管壁の拡張・蛇行・瘤状変化
オステオパシー的理解:全身循環システムとしての視点
オステオパシーでは、下肢静脈瘤を局所的な血管の問題として捉えるのではなく、全身の循環動態の失調として理解します。
Primary Respiratory Mechanism との関連
- craniosacral rhythmが全身の体液循環に影響
- 脳脊髄液循環と静脈還流の関係
- 自律神経系を介した血管調節機能
構造と機能の相互関係
- 骨盤の構造的不整合が静脈還流に与える影響
- 横隔膜機能と腹腔内圧の関係
- 下肢の biomechanical dysfunction と循環障害
主要な危険因子と病態進展
年齢関連要因
- 静脈壁の弾性線維(elastin)の変性
- コラーゲン構造の劣化
- 静脈弁の機械的強度低下
遺伝的要因
- 家族歴による静脈壁構造異常
- 結合織疾患の素因
- 静脈弁形成異常
機械的要因
- 長時間の立位・座位による静脈圧上昇
- 肥満による腹腔内圧増加
- 妊娠による下大静脈圧迫
ホルモン要因
- プロゲステロンによる静脈壁弛緩作用
- エストロゲンの血管内皮への影響
- ホルモン補充療法の関与
炎症・酸化ストレスの関与
- 慢性炎症による血管内皮障害
- 活性酸素種(ROS)による組織損傷
- 炎症性サイトカインの蓄積
2. オステオパシーによる包括的アプローチ
構造的調整による循環改善
骨盤環の統合的調整 理学療法士としての解剖学的知識から、骨盤の構造的不整合は鼠径部血管の圧迫や骨盤内うっ血を引き起こし、下肢静脈圧上昇の一因となることが分かります。
仙腸関節のモビライゼーション
- 仙骨の nutation と counternutation の回復
- 腸骨の生理的可動性改善
- 骨盤底筋群の機能正常化
腰椎-骨盤移行部の調整
- L4-S1レベルでの神経血管束の可動性改善
- 椎間孔での神経根圧迫解除
- 腰部交感神経節の機能最適化
股関節の機能回復
- 寛骨臼-大腿骨頭の適合性改善
- 股関節屈筋群の柔軟性向上
- 鼠径靭帯下での血管圧迫解除
内臓マニピュレーションによる循環改善
横隔膜機能の最適化 横隔膜は「第二の心臓」とも呼ばれ、下肢からの静脈還流に重要な役割を果たします:
- 横隔膜の可動性改善
- 呼吸ポンプ機能の回復
腹腔内臓器の調整
- 肝臓の位置とモビリティ調整
- 腸管の癒着解除
骨盤内臓器の機能改善
- 子宮の位置調整(女性)
- 膀胱の可動性改善
終わりに
下肢静脈瘤は「単なる年齢のせい」や「仕方のないこと」ではありません。生活習慣や身体の構造バランス、内臓・神経の働きにまで目を向けることで、根本的な改善や進行予防が可能です。
オステオパシーでは、これらの症状を局所的な血管の問題として捉えるのではなく、全身の循環動態と構造系の統合的な失調として理解します。
「治る力は、あなたの中にある」
この信念のもと、対症療法ではなく、身体全体の流れを整え、自然治癒力を最大限に引き出すお手伝いをさせていただきます。
当院では、理学療法士としての専門知識とオステオパシーの全人的アプローチを統合し、一人ひとりの循環動態と生活パターンに応じた個別の施術プログラムを提供しています。
手術や薬に頼る前に根本から身体を見直したい方、循環の視点から健康を改善したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
科学的根拠に基づいた評価と、身体が本来持つ循環改善能力を引き出す包括的なサポートで、皆様の健康回復をお手伝いいたします。
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