「右膝が痛くて、気づいたら体全体が右をかばうような歩き方になっていた」——こういった状態は、膝単体の問題というより、からだ全体の荷重の偏りとして現れていることが多いです。
今回は、右変形性膝関節症に左股関節の問題も合わさった60代女性の一例から、評価で見えたこと・行ったアプローチ・その後の変化をお伝えします。
理学療法士・健康科学修士・発達ケア・アドバイザーの大村颯太が担当しました。※変化のあらわれ方には個人差があります。
今回のケースから見えてきたこと
60代女性。右変形性膝関節症で歩行時痛・動き出し痛があり、5分程度が歩行の限度という状態でした。評価で最初に目に入ったのは、右膝をかばうことで生まれた歩き方の変化——ストライドが狭く、右への荷重を避けるような動きです。片足立ちは右足で1〜2秒が限界でした。さらに左股関節にも変形性変化があり、内旋・外旋ともに可動域が制限されていました。右と左、どちらも問題を抱えていたわけです。
局所だけでは説明しにくい背景
膝の炎症・癒着という局所の問題に加えて、胸郭・腹部の緊張パターンが脊椎・骨盤の動きに影響していました。腹部鬱滞や胸郭陰圧の増大は、内臓とのつながりを通じて全体の筋緊張に影響を与えます。「なぜ膝の施術の前に胸郭を触るのか」という疑問を持たれる方もいますが、こういったからだ全体のつながりがあるからこそ、末端の関節の動きが変わりやすくなるのだと考えています。
評価で着目したポイント
右膝の熱感・腫脹は徐々に落ち着いてきていましたが、関節内の線維化と腸脛靭帯(ITB)のテンションが残存していました。また、左股関節の内旋は通常より制限が強く、外旋も左右差がある状態。右膝をかばっているうちに左股関節にも負荷が蓄積されていたと考えられます。仙骨・骨盤の動きにも非対称性が見られました。
今回行ったアプローチ
まず胸郭・腹部の緊張を整えることから始めました。炎症が落ち着いた段階で、右膝周囲(ITB・ハムストリングス・脛骨内側・膝蓋骨周囲)の線維化・癒着をアプライドキネシオロジー(AK)と直接的なモビリゼーションで解放。並行して左股関節のアーティキュレーション、靱帯リリース、骨内テクニックを重ねていきました。左股関節の動きが出るにつれ、右膝への代償的な負荷も軽減されていく流れです。
ビフォーアフター(動画と写真で見る変化)
▲ 施術前後の歩行・片足立ちの変化(動画)
右足での片足立ちがかなり保持できるようになり、歩行時の痛みも軽減してきました。興味深いのは、右の改善に伴い「今度は左の股関節が気になる」という状態になったこと。これは右への代償パターンが変わり、左に本来の問題が顕在化したとも読み取れます。※変化には個人差があり、同じ結果をお約束するものではありません。
日常で意識したいセルフケア
「股関節から動かす」意識を持つだけで歩き方は変わりやすくなります。太ももの前面ストレッチと腹式呼吸を組み合わせて、胸郭〜股関節の連動を日常に取り入れることが助けになります。痛みが出る動きは無理に行わないことが前提です。
この変化をどう考えるか
今回のケースで見えたのは、「問題が一か所にとどまらない」ということです。右膝が落ち着けば左股関節の問題が前景に出てくる。これは悪化ではなく、からだ全体がより本来の荷重パターンに近づいているサインとも言えます。今後は左股関節の可動域改善と、両下肢のバランスを整えていくことが次のステップです。
OQでご相談いただきたい方へ
「膝や股関節の問題をからだ全体として診てほしい」という方は、ぜひお気軽にご連絡ください。動作分析を用いながら、現状をご一緒に確認していきます。
参考文献
- Fransen, M., McConnell, S., Harmer, A. R., Van der Esch, M., Simic, M., & Bennell, K. L. (2015). Exercise for osteoarthritis of the knee: a Cochrane systematic review. British Journal of Sports Medicine, 49(24), 1554–1557. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25716116/
- Hunter, D. J., & Bierma-Zeinstra, S. (2019). Osteoarthritis. The Lancet, 393(10182), 1745–1759. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31171109/

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