肩が上がらないこと自体もつらいのですが、脳卒中のあとに本当に困るのは「その腕をどう扱えばいいのかわからない」という日々の不安かもしれません。
肩だけを見ていると答えが出にくい場面でも、首周り、体幹、感覚の入り方、日常での上肢の置き方まで広げて見ると、負担のかかり方が少し整理しやすくなります。
理学療法士・健康科学修士の大村颯太が、今回の一例をもとに、脳卒中後の肩の痛みと亜脱臼をどう考えたかをお伝えします。※変化のあらわれ方には個人差があります。
今回のケースから見えてきたこと
今回の方は、左運動野領域の脳梗塞後、発症から1年以上が経過した60代女性です。入院中は肩の痛みが前面に出ていなかったものの、退院後に麻痺側肩の亜脱臼と夜間痛が目立つようになりました。肩の自力挙上は初期には約30度にとどまり、睡眠と日常生活の両方に影響していました。
9回の施術後には夜間痛が消え、肩の自力挙上は約90度まで変化しました。ここで大事だったのは、肩を「無理に上げる対象」として見るのではなく、肩に負担がたまり続ける背景をほどいていったことだと思います。
局所だけでは説明しにくい背景
脳卒中後の肩の痛みは、亜脱臼だけでは説明しきれないことが多いです。筋力低下や筋緊張の変化はもちろんありますが、首周りの過緊張、体幹の支えの弱さ、感覚入力の乏しさ、そして日常での上肢管理が重なると、肩はずっと落ち着かない状態になりやすいです。
このケースでも、肩単独の問題というより、身体全体の支えと感覚の入り方が整いにくいまま、麻痺側上肢だけに負担が集まり続けていたように見えました。
評価で着目したポイント
着目したのは3つです。ひとつ目は、退院後から強くなった夜間痛。ふたつ目は、肩の亜脱臼による不安定さ。三つ目は、肩の自力挙上が約30度にとどまるなかで、上肢を日常でどう支えるかが整理されていなかったことです。
痛みのある肩を直接どうにかするというより、どこで負担が増え、どの場面で肩が引っ張られやすいのかを見つけることが先でした。
今回行ったアプローチ
実際に行ったのは、首周りの調整、下肢と手指への感覚入力、そして麻痺側上肢の管理方法の整理です。肩の局所だけに集中するのではなく、身体全体で上肢を受け止められる状態をつくることを優先しました。
また、ご自宅でも続けやすいよう、上肢がぶら下がりにくい座り方や支え方を確認しました。日々の小さな扱い方が積み重なって、痛みの戻り方は変わってきます。
ビフォーアフター(動画と写真で見る変化)
▲ 施術前後の変化(動画)
変化として大きかったのは、夜に眠れないほどだった痛みが落ち着いたことです。肩の自力挙上も約90度まで広がり、ご本人のなかで「腕が扱いやすい」という感覚が戻ってきました。※変化には個人差があり、同じ結果をお約束するものではありません。
日常で意識したいセルフケア
まず大切なのは、麻痺側上肢を長時間ぶら下げないことです。座るときは肘の下に支えを入れ、肩が引っ張られにくい位置をつくります。次に、手指や前腕へやさしく触れたり、支えのある状態で小さく動かしたりして、感覚の入り口をつくります。最後に、首や肩に力が入りすぎているときは、呼吸を整えて緊張を落とす時間を持つこと。派手さはありませんが、こうした基本が土台になります。
この変化をどう考えるか
今回の変化は、肩だけをどうにかしたというより、肩へ負担が集まり続ける条件が少しずつ減っていった結果だと考えています。首周り、感覚入力、上肢管理という一見地味な調整でも、慢性期の肩には意味を持つことがあります。
研究を見ても、脳卒中後の肩の痛みは単一の原因で説明しにくく、状態に応じた個別の組み立てが必要とされています。このケースも、そのことをあらためて感じさせてくれました。
OQでご相談いただきたい方へ
脳卒中後の肩の痛みや亜脱臼で、時間が経っているから仕方ないのかな、と感じている方もおられると思います。ただ、慢性期でも見直せる点はあります。肩そのものだけでなく、全身の支えや日常での上肢管理まで含めて整理したい方は、ご相談ください。
参考文献
- Poststroke shoulder pain. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11382817/
- Positioning to prevent or reduce shoulder range of motion impairments after stroke: a meta-analysis. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19482894/
- Interventions for Post-Stroke Shoulder Pain: An Overview of Systematic Reviews. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7732168/

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