「走ると踵の上あたりがズキッと痛む」
「朝の一歩目でアキレス腱が硬くて伸ばせない」
「何度も繰り返している。休むと治るが、また再発する」
アキレス腱の痛みで来院される方の多くが、こうした訴えをされます。整形外科で「アキレス腱炎ですね、しばらく運動をやめましょう」と言われ、安静で楽になって走り出すと、また同じ場所が痛み始める——そういう繰り返しの中にいる方、少なくありません。
私は副院長の大村颯太です。京都オステオパシーセンターOQで、下肢の問題と歩行・ランニング分析を専門に診ています。今日は、アキレス腱の痛みが「休めば治る」では解決しない理由と、繰り返さない体をつくるアプローチについてお話しします。
アキレス腱炎とアキレス腱症——似て非なる二つ
まず知っておいてほしいのは、「アキレス腱の痛み」と一括りに呼ばれているものの中には、性質がまったく違う二つの状態が含まれているということです。
① アキレス腱炎(Achilles tendinitis)
急性の炎症が主体の状態です。発症からおおむね2〜4週間以内の、「炎症細胞が組織に集まっている」段階。アイシング・一時的な安静・消炎薬で比較的早く落ち着きます。
② アキレス腱症(Achilles tendinopathy/tendinosis)
こちらは、腱のコラーゲン線維そのものの「変性と配列の乱れ」が主体の状態です。炎症細胞は少なく、組織そのものの質が落ちている。数ヶ月〜数年単位の慢性経過をたどることが多く、安静にしても腱の質は戻らない——これが決定的に違います。
「休んだら痛くなくなった」のは、負荷がかかっていないから痛みが出ないだけで、腱の質は変わっていない。だから走り出すと再発する——これがアキレス腱症の正体です。「休めば治る」が通用しないのは、このためです。
アキレス腱に負荷を集中させる4つの上流要素
腱そのものをケアするだけでは不十分です。なぜ腱にそれだけの負荷がかかっているのか——上流の原因を見ておく必要があります。私が歩行分析で実際に見ているパターンは、大きく4つです。
① 足関節の背屈制限(ふくらはぎと後足部の硬さ)
足首をすねの方に曲げる動き(背屈)が十分に出ない場合、歩行や走行の推進期にアキレス腱は強く引き伸ばされます。ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)の柔軟性だけでなく、距骨と脛骨の間の関節の動きが固まっているケースも多い。
「ふくらはぎは毎日ストレッチしているのに変わらない」という方は、このタイプが多いです。筋肉より関節の動きを整える必要があります。
② 足部の過剰回内(オーバープロネーション)
足のアーチが崩れて内側に倒れ込むと、アキレス腱は真っ直ぐではなくねじれた方向に引っ張られることになります。この「ねじれ負荷」が、特に腱の内側〜中央部の変性を進めます。
③ ランニングフォームの偏り
ランナーに多いのは、
- オーバーストライド(歩幅が大きすぎる)——接地時のブレーキ力が強くなる
- 体幹の前傾が少ない——推進力をふくらはぎで稼ごうとする
- つま先接地(フォアフット)への急な変更——ヒールストライクからの移行期はアキレス腱への負荷が一気に増える
「最近シューズを変えた/走り方を変えた」という時期に痛み始めた方は、ここの関与が大きいです。
④ 股関節伸展の制限
意外に見落とされるのがここです。デスクワーク中心の生活で股関節の前側が硬くなると、歩行・走行で後ろに脚を送る動き(伸展)が十分に出ません。その分をふくらはぎで代償しようとするので、アキレス腱への負担が増えます。
「座りっぱなしの仕事の後に走るとアキレス腱が痛む」というパターンは、股関節伸展不足の典型です。
エキセントリックトレーニング——科学的エビデンスのある運動療法
アキレス腱症に対して最もエビデンスが蓄積されている運動療法が、エキセントリック(伸張性)カーフレイズです。簡単に言うと「踵を上げた後、ゆっくりじっくり下ろす」動作で、腱に適度な負荷をかけながら、コラーゲン線維の再整列を促すとされています。
1998年のAlfredsonの研究以来、多くの論文でこのプロトコルの有効性が確認されています。ただし、
- 一定期間(通常12週)継続する必要がある
- 回数と負荷を段階的に上げていく
- 痛みが強すぎる時期は開始を調整する必要がある
など、やみくもに始めても効かないこともあります。OQでは、体の評価に合わせた段階的な導入と、正しいフォームのチェックを行っています。
OQでのアキレス腱痛アプローチ
OQでは、アキレス腱の痛みに対してこんな順番で診ていきます。
- 歩行・ランニング分析——どの瞬間にアキレス腱にどれくらいの負荷がかかっているかを観察する
- 上流評価——足関節背屈・股関節伸展・骨盤の左右差・体幹の使い方をチェック
- オステオパシー手技——距骨・踵骨・腓骨・股関節まわりの制限を整える
- 必要に応じてインソール——過剰回内を抑え、アキレス腱のねじれ負荷を減らす
- エキセントリックトレーニング指導——段階的に負荷を上げていくプロトコルをお伝えする
大事なのは「走るのをやめない」方向性。痛みのレベルを見ながら距離と頻度を調整しつつ、腱に質の良い負荷を与え続けることが、長期的な回復には不可欠です。
よくある質問(FAQ)
Q. 完全に安静にした方が早く治りますか?
A. 急性炎症期(発症〜数週間)は安静が有効です。しかし、慢性期のアキレス腱症では完全な安静は逆効果になることが知られています。負荷をかけない期間が長引くと、腱の質はむしろ低下します。大切なのは「痛みを悪化させない範囲での適切な負荷」を継続することです。
Q. ストレッチとマッサージだけで治りますか?
A. 一時的な緩和にはなります。ただし腱そのものの質を変えるには、「適切な方向への適切な強度の負荷」が必要——これがエキセントリックトレーニングの役割です。ストレッチ・マッサージは補助と位置づけ、トレーニングと組み合わせるのが効率的です。
Q. 朝の一歩目が特に痛いのはなぜですか?
A. 睡眠中は足関節がやや底屈位(つま先が下がった位置)に保たれることが多く、アキレス腱が短縮した状態で固まっています。起き上がって体重をかけた瞬間、急にその腱が伸ばされ、痛みが強く出ます。「朝こわばり」とも呼ばれ、アキレス腱症の典型的な症状です。日中は動いているうちに楽になるのも特徴です。
Q. どれくらい続くと「慢性」になりますか?
A. 一般的には発症から3ヶ月以上を慢性期と呼びます。ただ、1ヶ月経っても良くならない・繰り返すという時点で、アキレス腱炎(炎症)ではなくアキレス腱症(変性)に移行している可能性を考えます。できるだけ早めに上流からの評価を受けたほうが、回復は早くなります。
最後に
アキレス腱の痛みは、「使いすぎ」という一言で片付けられがちです。でも、多くの場合、使いすぎではなく、使い方の偏りが本当の原因です。偏りを変えれば、同じくらい走っていても腱への負担は半分以下になる——そういうケースを何度も見てきました。
「何度もアキレス腱を痛めている」「休んでも復帰するとまた痛くなる」「大会前なのに不安がある」——そういう方は、足の腱だけでなく体全体から見直すタイミングかもしれません。
参考文献
本記事のアキレス腱症・腱炎の病態・バイオメカニクス・運動療法に関する内容は、以下の文献を参考にしています。
書籍
- Earls, J. Born to Walk: Myofascial Efficiency and the Body in Movement (2nd ed.). North Atlantic Books, 2020.
- Dicharry, J. Anatomy for Runners: Unlocking Your Athletic Potential for Health, Speed, and Injury Prevention. Skyhorse Publishing, 2012.
- Vonhof, J., & Olson, T. Fixing Your Feet: Injury Prevention and Treatment for Athletes (7th ed.). Wilderness Press, 2022.
- Kelikian, A. S., & Sarrafian, S. K. Sarrafian’s Anatomy of the Foot and Ankle (3rd ed.). Lippincott Williams & Wilkins, 2011.
- Fink, B. R., & Mizel, M. S. The Whole Foot: A Complete Program for Taking Care of Your Feet. Demos Health, 2007.
研究論文・臨床ガイドライン
- Alfredson, H., Pietilä, T., Jonsson, P., & Lorentzon, R. (1998). Heavy-load eccentric calf muscle training for the treatment of chronic Achilles tendinosis. The American Journal of Sports Medicine, 26(3), 360–366. https://doi.org/10.1177/03635465980260030301
- Cook, J. L., & Purdam, C. R. (2009). Is tendon pathology a continuum? A pathology model to explain the clinical presentation of load-induced tendinopathy. British Journal of Sports Medicine, 43(6), 409–416. https://doi.org/10.1136/bjsm.2008.051193
- Silbernagel, K. G., Hanlon, S., & Sprague, A. (2020). Current clinical concepts: conservative management of Achilles tendinopathy. Journal of Athletic Training, 55(5), 438–447. https://doi.org/10.4085/1062-6050-356-19
- Malliaras, P., Barton, C. J., Reeves, N. D., & Langberg, H. (2013). Achilles and patellar tendinopathy loading programmes: a systematic review comparing clinical outcomes and identifying potential mechanisms for effectiveness. Sports Medicine, 43(4), 267–286. https://doi.org/10.1007/s40279-013-0019-z
- Maffulli, N., Khan, K. M., & Puddu, G. (1998). Overuse tendon conditions: time to change a confusing terminology. Arthroscopy, 14(8), 840–843. https://doi.org/10.1016/S0749-8063(98)70021-0
※ 本記事は一般向けの情報提供を目的としています。断裂など緊急性のある状態は整形外科受診を優先してください。
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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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