脳卒中後の歩行の続編——「装具を外したい」と思った時に読む話

脳卒中のリハビリで作った短下肢装具。
歩けるようになった嬉しさの一方で、「いつまでこれを着けるのか」という疑問が頭をよぎる方は、少なくないはずです。

「装具を外したい」——その気持ちは、回復の手応えから来ているのか、それとも別の理由から来ているのか。
同じ言葉でも、背景が違えば取るべき選択肢は変わります。

こんにちは、副院長の大村颯太です。前回の記事では「脳卒中後の歩行は『歩ける』のその先がある」というお話をしました。今回は続編として、装具との向き合い方と、「外す」ための条件についてお伝えします。

目次

装具の役割は「歩けるようにすること」だけではない

短下肢装具(AFO)は、麻痺で働きにくくなった足首の背屈を補助し、歩行中のつまずきを防ぐ道具です。でも、その役割はそれだけではありません。

  • 足部の変形予防——尖足(足首が下を向いたまま固まる状態)が進むのを防ぐ
  • 歩行時の安心感——転倒への恐怖を減らし、活動量を保つ
  • 筋・腱の過伸張予防——一方向に引き伸ばされ続ける負担を分散
  • 脳への感覚入力の安定化——「足首がどこにあるか」を一定に保つ

「歩ける」という以上の意味があるから、簡単には外せない——これが装具の本当の姿です。
逆に言えば、これらの役割の多くを装具なしでも担保できる状態になれば、外すという選択肢が現実的になります。

「外したい」と思う時の2つのパターン

「装具を外したい」という気持ちの背景には、私の経験上、2つのパターンがあります。

パターンA:実際に機能が回復してきた

麻痺側の足関節の動きが戻ってきて、装具なしでも歩けそうな感覚がある。歩いていて装具が邪魔に感じる——これは喜ばしい変化です。慎重に段階を踏めば、装具を減らしていける可能性があります。

パターンB:心理的な抵抗が強まっている

機能は変わっていないけれど、装具への違和感、見た目、社会的な視線がストレスになり、外したくなる。このパターンで急に外してしまうと、転倒 → 骨折 → リハビリ後退という負のサイクルに入りかねません。

気持ちはどちらも本物です。ただ、対処の方向は真逆。だから、自分の「外したい」がAなのかBなのかを見分けることが、最初のステップになります。

「外すための3条件」

機能面から見て、装具を段階的に外していける目安として、私は3つの条件を見ています。

  1. 足関節の随意背屈が可能——自分の意志で足首を上に持ち上げられる(10度以上が目安)
  2. 片脚立ちが保てる——麻痺側でしっかり体重を支えられる
  3. 段差や不整地でもつまずかない——日常で出会うレベルの環境変化に対応できる

この3つが揃ってきたら、室内 → 短距離の散歩 → 日常生活の順に、段階的に装具を外す時間を増やしていけます。

大事なのは、いきなり丸一日外すのではなく、時間と場面を区切ること。たとえば——

  • まず家の中で30分だけ外してみる
  • 慣れたら近所の散歩で外してみる
  • さらに慣れたら買い物のときも外してみる

こんなふうに、失敗しても被害が小さい場面から試していくのが安全です。「家の中で大丈夫だったから外で大丈夫」とは限りません。屋外には不整地や段差、人混みがあります。

「外さなくていい」も立派な選択肢

もう一つ、どうしてもお伝えしたいことがあります。
装具を着けたまま、より良い人生を生きる——これも十分に立派な選択肢です。

  • 最新の軽量装具やデザイン性の高い製品を検討してみる
  • 装具の上から履ける、おしゃれな靴を選ぶ
  • 装具があることを前提に、活動範囲を広げる

装具は「治っていない印」ではありません。自分の体を支える道具です。眼鏡と同じように、付き合っていける相棒になり得ます。

外すことだけが正解ではない——この感覚を持っていると、装具に対する気持ちは少し軽くなります。

OQでできること

OQの自費リハビリでは、装具との向き合い方について、次のようなお手伝いをしています。

  • 麻痺側機能の評価——随意動作・感覚・筋緊張を細かく見て、現在地を把握する
  • 装具なし歩行の可能性検証——歩行分析で「外せそうか」を客観的に見る
  • 装具の調整・インソール併用の提案——着けたまま快適にする方向の相談
  • 「外す」「外さない」それぞれの道筋の提示——その方の目標に合わせて、具体的なステップを一緒に考える

外すか外さないか、どちらが正解ということはありません。あなたの体の状態と、生活で大事にしたいことに合った道を、一緒に探していきます。

よくある質問

Q. 発症から何年経っても、装具を外せる可能性はありますか?

A. 発症からの時間より、現在の麻痺側機能と全身のコンディションのほうが重要です。発症から10年以上経っていても、適切なアプローチで装具なし歩行に移行できる方はいらっしゃいます。逆に、まだ1年以内でも、機能的に難しい場合もあります。「もう遅い」と諦める前に、現在の状態を一度評価する価値があります。

Q. 装具を外す練習で転倒しないか心配です

A. 心配は当然です。だからこそ、いきなり屋外で外すのではなく、家の中の安全な環境から始めます。手すりや壁が近い場所、柔らかい床、座れる椅子がそばにある状況——そうした条件を揃えたうえで、短時間から試します。転倒のリスクを完全にゼロにはできませんが、計画的に減らすことはできます。

Q. 装具の見た目が気になって外出が減りました。何かできることは?

A. 装具を「外す」以外の選択肢が、実はたくさんあります。最近は薄手で目立ちにくい装具、靴の中に隠せるタイプ、デザイン性のある製品が増えています。装具の上から履ける靴の選び方も含めて、装具を持ったまま生活を広げる工夫はかなりできます。装具と社会的な視線、両方のストレスを減らす方向のご相談も歓迎しています。

最後に

「装具を外したい」という気持ちは、自分の体に向き合っているからこそ生まれるものです。それ自体が、回復の途中にいる証だと思います。

大事なのは、その気持ちの正体を知ること——機能の回復から来ているのか、心理的な負担から来ているのか。そして、自分の体の状態に合った段階的な道筋を選ぶこと。

外すという選択肢も、外さないという選択肢も、どちらも前向きな決断です。ひとりで抱え込まず、ぜひご相談ください。


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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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この記事を書いた人

大村颯太
・理学療法士
・健康科学修士
・発達ケア・アドバイザー上級

Sota Omura
・Physiotherapist
・Master of Health Science
・JEFPA Certified Foot Care Advisor
・Developmental Care Advisor

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