脳卒中後、立った瞬間に足首が「ビクビクッ」と震える。装具を外したいけれど、外すと足が引っかかる。階段の下りが特に怖い——そんな方は、クローヌスと痙性という反応に悩まされている可能性が高いです。
こんにちは、副院長の大村颯太です。前回は脳卒中後の「指」を扱いましたが、今回は下肢版として足首のクローヌスと痙性についてお話しします。装具との付き合い方も含めて、実用的な視点でまとめます。
※ 脳卒中後のリハビリは、急性期・回復期の保険リハビリが基本です。本記事は退院後・維持期の自費リハビリの選択肢としての視点を提供します。ボトックス治療など医療機関の指示がある場合はそれを優先してください。
クローヌスと痙性、何が起きているのか
脳卒中で大脳から脊髄への運動指令の通り道が傷つくと、脊髄レベルの反射が「ブレーキ役」を失います。結果として、本来は抑えられているはずの反射が過剰に出てくる——これが痙性(spasticity)です。
その極端な形がクローヌス。ふくらはぎが急に伸ばされると、脊髄反射が連鎖して足首が周期的にビクビク震える状態になります。立位や歩行で踵が床につく瞬間、階段を降りる瞬間など、ふくらはぎが急に伸びる場面で起こりやすい。
大事なのは、これは「筋肉が暴走している」のではなく、脳と脊髄の交通整理がうまくいっていない状態だということです。だから、ふくらはぎを揉んでも一時しのぎ。脳と脊髄の関係を整える視点が必要になります。
脳卒中後の足首・3つのパターン
パターン①:荷重時クローヌス型
立ち上がる瞬間、踵接地の瞬間に足首がビクビクと震えるタイプ。階段の下り、坂道の下りで顕著に出ます。本人としては「いつ震えが来るか怖い」という不安が常にあり、歩行範囲が狭まる要因にもなります。
パターン②:背屈制限型痙性
ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)が常に硬く緊張し、足首が上に曲がらないタイプ。歩行時につま先が引っかかる、しゃがめない、階段の上りで体重が前に乗らない。痙性が進行すると関節拘縮へ移行する可能性もあるため、可動域の維持が重要です。
パターン③:内反尖足型
足首が内側に倒れ、つま先が下を向く「内反尖足」のパターン。歩行時に足の外側だけ接地する、靴の外側ばかりが擦り減る、足首をくじきやすい。装具(AFO)が必要になることが多いタイプです。
どのパターンも、単純な「筋トレ」では改善しません。むしろ、無理な筋力強化は痙性を強めることがあります。感覚・可動域・荷重の質を整える順番が大切です。
OQでの評価とアプローチ
OQでは、脳卒中後の足首に対して以下を評価します。
- 痙性の程度(Modified Ashworth Scaleの考え方を参考に)
- クローヌスの誘発条件と持続時間
- 足関節の他動・自動可動域
- 足部内反・外反のアライメント
- 歩行時の踵接地パターンと膝・股関節への波及
そのうえで、ふくらはぎの伸長性を保つ手技、足部内在筋への入力、荷重感覚の再教育を組み合わせます。痙性を「ゼロにする」のではなく、「日常生活に支障の少ないレベルに保つ」のが現実的な目標です。完全に消すことは難しくても、ビクビクの頻度や強さを下げることはできる方が多い。
装具(AFO)との付き合い方
多くの方が「装具を外したい」と希望されます。気持ちはよく分かりますが、装具は「敵」ではなく「環境を整える道具」として捉えてください。
装具をつけている時間は安全に歩ける時間。その時間を活かして筋肉と関節を動かし、装具を外している時間は感覚を取り戻すワークをする——この組み合わせが現実的です。「いつかは外せる」を目標にしつつ、今日安全に歩ける手段を捨てないのが大事。
装具の調整やカット、買い替えのタイミングについても、希望があれば医療機関や義肢装具士と相談する流れをサポートします。
自宅でできる足からのアプローチ
- ふくらはぎのゆっくり伸ばし:強引にではなく、痛みのない範囲で30秒
- 足裏触覚:足裏を異なる素材で優しく刺激(タオル・ボール)
- 座位での足首回し:自動運動でゆっくり全可動域
- 立位での荷重練習:手すりに掴まり、麻痺側に少しずつ体重を移す
「クローヌスが出たらどうしよう」と緊張すると、かえって誘発されやすくなります。呼吸を止めず、ゆっくり動かすのがコツ。痛みや強い震えが出たらすぐ中止して、主治医や当院にご相談ください。
よくある質問
Q. ボトックス治療を受けています。OQに通っても大丈夫ですか?
A. むしろ並行が理想的です。ボトックスで一時的に痙性が弱まっている時期は、関節可動域を広げたり、筋活動の再教育を行う絶好のチャンスです。受診の際は、注射部位・注射日・主治医からの指示を必ずお知らせください。注射後数日は様子を見ながら、痙性が弱まった筋に対しては「使える範囲を広げる」アプローチを行います。ボトックスの効果を最大限に活かす形で関わります。
Q. クローヌスは完全になくなりますか?
A. 完全に消すことは難しいことが多いです。ただ、誘発条件・頻度・持続時間を変えることはできます。「以前は階段の下りで毎回出ていたのが、今は3回に1回」「出ても5秒で収まるようになった」というレベルの変化を目指します。これだけでも、日常生活での不安感や歩行範囲が大きく変わってきます。「ゼロを目指す」より「実用範囲に収める」が現実的な目標です。
Q. 装具を外すことが目標ですか?
A. 外すことが目的ではなく、「安全に歩ける範囲を広げる」のが目的です。結果として装具なしで歩ける時間が増える方もいますが、それは副産物。装具をつけたまま、より自然に・より長く・より疲れずに歩けるようになることも立派なゴールです。本人にとって「意味のある変化」を一緒に設定します。家の中だけ外す、特定の場面だけつけるなど、柔軟な使い分けも提案します。
最後に
クローヌスと痙性は、脳卒中後の方にとって本当に厄介な反応です。でも、「全部消す」のではなく「うまく付き合う」方向に切り替えると、できることが見えてきます。
装具・薬・自費リハビリは、対立するものではありません。それぞれが役割を持っていて、組み合わせ次第で「安全に歩ける範囲」が変わります。「もう変わらない」と諦める前に、一度評価を受けてみてください。
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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後自費リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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