股関節の続編——ストレッチをしても柔らかくならない人へ

毎日ストレッチしているのに、股関節が全然柔らかくならない。
あぐらをかこうとすると、いつも同じ角度で「これ以上は無理」と止まる。お風呂上がりにじっくり伸ばしても、翌朝には元通り——。

こういう方は決して少なくありません。そして、これは意志の問題でも、体質の問題でもありません。アプローチの問題です。

こんにちは、副院長の大村颯太です。前回の記事では「股関節の硬さには種類がある」とお伝えしました。今回はその続編として、ストレッチで変わらない股関節にアプローチする具体的な方法をお話しします。

目次

なぜストレッチが効かないのか

股関節が硬い理由は、大きく分けて4種類あります。

  1. 筋肉の短縮(いわゆる「硬さ」のイメージに近いもの)
  2. 関節包の拘縮(関節を包む袋が縮んでいる状態)
  3. 骨の形(もともとの大腿骨頭の被り方や寛骨臼の深さ)
  4. 神経系の抑制(脳が「ここから先は危険」と無意識に動きを止めている)

ここが大事なのですが——一般的なストレッチが対応できるのは、実は①の筋肉の短縮だけです。②〜④には、まったく別のアプローチが必要になります。

「毎日ストレッチしてるのに変わらない」という方の多くは、自分の硬さが②〜④に由来しているのに、①向けの方法を続けてしまっている。だから、いくらやっても景色が変わらないのです。

②関節包の拘縮には「牽引」が要る

関節を包んでいる関節包は、いわば関節のカプセルです。長く動かない期間が続いたり、軽い炎症を繰り返したりすると、この袋が縮んで硬くなります。

関節包が縮んだ状態では、いくら筋肉を伸ばしても関節そのものの動きは変わりません。必要なのは、関節を引き離す(牽引する)力です。

OQでは、股関節を適切な方向に軽く引き離しながら、可動域の端を少しずつ広げていきます。これは専門家の手技が向いている領域です。

自宅でできる代用としては、こんな動きが効きます。

  • 仰向けで片膝を抱え、反対の脚を重力でストンと落とす(落とした脚側の関節に軽い牽引が入る)
  • プールで水の浮力を使って脚をぶらぶら動かす(重力が抜けると関節間に隙間ができる)
  • 椅子に座って脚を組み、上体を前に倒す(関節包の後方に長めの刺激)

いずれも「無理に伸ばす」のではなく「関節の隙間をやさしく広げる」イメージです。

③骨の形による「生まれつきの硬さ」

レントゲンやMRIで股関節の形を見ると、大腿骨頭の被り方が深いタイプの方が一定数います。専門用語で言うとピンサー型のFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)に近い形です。

このタイプは、物理的に可動域が限られているので、どんなストレッチをしても限界があります。

このとき大事なのは、「限界を超えよう」とすることではありません。
限界を受け入れつつ、その範囲の中で最大の機能を引き出すこと——これが正解です。

無理に広げようとすると、かえって関節唇を傷めたり、関節の前面に痛みを残してしまったりします。「私は柔らかくならないんだ、骨格的に」と知っておくだけで、不要なダメージを避けられます。

これを正確に判別するには医療機関での画像診断が必要ですが、臨床評価の中で「ここまでが構造的限界に近い」と判断できる場合もあります。子どもの頃から開脚が苦手だった、という方は、形の個性が関わっている可能性が高いです。

④神経系の抑制を解く——意外な主犯

4つの中で、私がいちばん見落とされていると感じるのが、これです。

脳は、過去の怪我・痛み・転倒経験を細かく覚えています。そして、「この角度から先は危険」と判断すると、無意識のうちに筋肉に力を入れてブレーキをかけ、それ以上動かないようにします。本人は「硬い」と感じているけれど、実際は脳が止めているのです。

このブレーキは、力ずくのストレッチではほどけません。むしろ、強引に伸ばそうとすると、脳は「やっぱり危険なんだ」とブレーキを強めてしまいます。だから、頑張るほど硬くなる——という逆転現象が起きます。

ブレーキを解くには、ゆっくりとした、安全な動きで脳に「ここまで動いても大丈夫だよ」と伝えていくしかありません。

  • 仰向けで膝を左右にゆっくり倒す(5分間、ただそれだけ。スマホを見ながらでもよい)
  • 呼吸に合わせて、吐きながら少し動かし、吸いながら戻す
  • 痛くない範囲のいちばん端で、3秒だけ止まる
  • 「ここまで動いていいんだ」と脳に教えるつもりで、回数より時間で取り組む

OQで行う股関節アプローチ

OQでは、まずあなたの股関節の硬さが①〜④のどれ(またはどの組み合わせ)に由来しているかを評価します。そのうえで、必要な手技・運動・指導を組み合わせます。

  • 関節包の拘縮には、関節への牽引と可動域訓練
  • 筋肉の短縮には、筋膜リリース・段階的なストレッチ
  • 神経系の抑制には、ゆっくりとした動きのワークと呼吸の使い方
  • 骨の形に由来する制限には、その範囲内での機能の最大化と、無理しないラインの確認

これらは独立しているように見えて、実は相互に関係しています。神経系の抑制が解けると関節包の動きが変わり、関節包の動きが変わると筋肉も伸びやすくなる——という連鎖があります。

ストレッチだけでは変わらなかった股関節が、数ヶ月で明らかに変わる方は少なくありません。

よくある質問

Q. 何年もストレッチを続けてきました。今からでも変わりますか?

A. 多くの場合、変わることが多いです。長年変わらなかったという事実は、むしろ「①の筋肉アプローチでは届かない硬さがあった」というサインです。②〜④のどれが主犯かを見極めて、それに合った刺激を入れていけば、半年〜1年で景色が変わる方が多いです。

Q. 股関節を柔らかくするには、痛みを我慢して伸ばすべきですか?

A. 我慢はおすすめしません。痛みを伴うストレッチは、脳に「やっぱり危険」と学習させ、神経系のブレーキを強めてしまいます。可動域は広がるどころか、長期的には硬くなる方向に作用することもあります。痛気持ちいいの「気持ちいい」寄りで、時間をかける方が結果は出やすいです。

Q. ヨガやピラティスを続けていますが、股関節だけ変わりません。なぜですか?

A. ヨガやピラティスは①の筋肉アプローチとして優れていますが、②関節包・③骨格・④神経系のブレーキには直接届きにくいことがあります。クラスでは前後の人と同じポーズを取ろうとして無理が出やすいので、自分の硬さの原因を一度評価してから、ヨガを続けるとより効きます。

最後に

「ストレッチしているのに柔らかくならない」のは、あなたの努力が足りないからではありません。硬さの種類に対して、合っていないアプローチを続けているからです。

関節包・骨格・神経系——それぞれに合った刺激の入れ方があります。何年も自己流のストレッチを続けて変わらなかった方こそ、一度アプローチを変えてみる価値があります。

「自分の硬さの正体」を知るところから、いっしょに始めてみませんか。


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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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この記事を書いた人

大村颯太
・理学療法士
・健康科学修士
・発達ケア・アドバイザー上級

Sota Omura
・Physiotherapist
・Master of Health Science
・JEFPA Certified Foot Care Advisor
・Developmental Care Advisor

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