変形性股関節症——「年齢のせい」と言われる前に知っておきたいこと

歩き始めの一歩で、太ももの付け根や鼠径部にズキッと痛みが走る。

階段を降りるとき、椅子から立ち上がるとき、靴下を履こうとして脚を組んだとき——。

整形外科でレントゲンを撮ると、「変形性股関節症ですね。年齢的なものです」と言われる。

この「年齢的なもの」という言葉で、納得できますか?

私は副院長の大村颯太です。京都オステオパシーセンターOQで、股関節や膝の痛み、歩行の問題を専門に診ています。今日は、変形性股関節症という診断を受けた方に、まず知っておいてほしいことをお話しします。

目次

変形性股関節症とは何か

股関節は、骨盤のお椀型の受け皿(寛骨臼/かんこつきゅう)に、大腿骨の先端にある球(大腿骨頭)がはまり込んでできている関節です。球とお椀のあいだは、軟骨というクッションで覆われています。

変形性股関節症は、このクッション——関節軟骨——が少しずつすり減り、骨どうしの隙間が狭くなっていく状態を指します。進行すると、骨の縁に骨棘(こっきょく)と呼ばれるトゲ状の突起ができ、関節の形そのものが変わっていきます。

症状としては、次のようなものが段階的に現れてきます。

  • 歩き始めや立ち上がりの鼠径部の痛み
  • 股関節の可動域が狭くなる(あぐらをかきにくい、靴下が履きにくい)
  • 長く歩いたあとの太ももや腰の重だるさ
  • 進行すると夜間や安静時の痛み

「年齢のせい」と言われたときに立ち止まってほしいこと

確かに、加齢とともに軟骨は摩耗します。これ自体は事実です。

でも、ここで立ち止まって考えてみてください。

変形の程度と痛みの程度は、必ずしも一致しません。

MRIで見れば軟骨の摩耗がはっきり写っているのに痛みのない方もいれば、逆に画像上は軽度の変形なのに強い痛みに悩まされている方もいます。画像で見える「構造」と、身体が感じる「機能」は別物なのです。

だから、「変形があるから痛い」という説明だけでは、あなたの痛みの全体像を捉えきれていない可能性があります。

そして、もう一つ。チンパンジーには、ヒトのような変形性股関節症はほとんど見られません。同じ霊長類で、同じくらいの体重で、野生では何十年も生きている彼らの股関節が「老化」しないのは、なぜでしょうか。

二足歩行は、股関節にとって「過酷な設計変更」だった

四足歩行の動物では、体重は4本の脚に分散されます。股関節への垂直荷重は、人間に比べるとはるかに小さい。

一方、ヒトは進化の途中で立ち上がりました。その代償として、体重のすべてが左右2つの股関節に集中するようになったのです。

歩行中、片脚で体を支える瞬間には、股関節に体重の3〜4倍もの荷重がかかることが知られています。階段の上り下りや走行では、さらに大きくなります。

直立二足歩行で得たものは、あまりに大きかった——手の自由、広い視野、長距離を歩くエネルギー効率。その代わりに、股関節の軟骨は「すり減りやすい」という弱点を抱え込むことになりました。

これは、老化というより設計上のトレードオフです。だから、年齢だけで片付けるのは少し乱暴なのです。

座りっぱなしが、追い打ちをかける

狩猟採集をしていた時代のヒトは、1日に平均15〜20km歩いていたと推計されています。しかもその歩きは、平地、坂、石の上、草むら、砂利道と、非常に多様でした。股関節はあらゆる角度で動かされ、周囲の筋肉はさまざまな方向に収縮していました。

現代の私たちはどうでしょうか。1日の大半を椅子に座って過ごし、股関節は90度に曲げたまま8〜10時間。通勤、デスクワーク、食事、ソファ、車の運転——。

この姿勢は、股関節の前側の筋肉(腸腰筋)を硬く短くし、お尻の筋肉(大臀筋・中臀筋)を眠らせ、関節を動かすことで循環するはずの関節液を停滞させます。

そして、いざ歩こうと立ち上がったとき、眠った筋肉は十分に働けません。結果、股関節まわりの筋肉が関節を守れない状態で、体重だけが乗ることになります。

「座りすぎ」という環境は、ヒトの進化史にほぼ存在しませんでした。つまり、変形性股関節症は「老化」だけで起きているのではなく、老化した身体が設計想定外の環境に置かれたときに起きるミスマッチとして理解したほうが、はるかに自然なのです。

軟骨は「減るだけ」ではない

「軟骨はすり減ったら戻らない」——これは、半分正しく、半分古い理解です。

関節軟骨には血管がありません。だから再生力は限られています。でも、軟骨への栄養は関節液の循環によって供給されていて、その循環は、関節が適切に動くことで促されます。

動かないことが、むしろ軟骨の劣化を加速させる。

痛いから動かない → 筋肉が弱る → 関節への衝撃が増える → 痛みが増す → もっと動かなくなる。

この悪循環こそが、変形性股関節症を「年齢のせい」以上のスピードで進めてしまう正体です。だから私がいつも患者さんにお伝えしているのは、「動かし方を変えると、関節の環境も変わります」ということです。

股関節の「形」と「使い方」——二つの視点

変形性股関節症を見るうえで、もう一つ知っておいてほしい視点があります。関節の形です。

股関節には、生まれつきの個人差があります。

  • 寛骨臼の被りが浅い(寛骨臼形成不全)——日本人女性に比較的多く、受け皿が浅いぶん、荷重が一点に集中しやすい
  • 寛骨臼の被りが深い(FAI:大腿骨寛骨臼インピンジメント)——骨どうしがぶつかりやすく、特定の角度で痛みが出やすい

「ストレッチを頑張っているのに全然柔らかくならない」「子どもの頃から股関節が硬い自覚がある」という方は、この形の個性が関わっている可能性があります。

大事なのは、「形を変えよう」とすることではありません。その形の中で、関節に無理な負担がかからない使い方を見つけていくことです。

膝や腰だけの問題ではない——全身の連鎖で診る

OQでは変形性股関節症を、股関節単体の問題として見ることはほとんどありません。

股関節の痛みを訴えて来られる方の身体を診ていくと、多くの場合、次のようなパターンが重なっています。

  • 足首の可動性が落ちて、歩行中の衝撃吸収が弱くなっている
  • 骨盤が左右どちらかに傾き、片側の股関節にばかり荷重が乗っている
  • 腰椎の動きが少なく、股関節で代償して過剰に動かしている
  • お尻の筋肉(特に中臀筋)が働かず、歩くたびに骨盤が横にぶれる

つまり股関節は「その間にある関節」として、上からの腰椎・骨盤のストレスと、下からの足首・足部のストレスを同時に受け止めているのです。

だから、股関節だけをマッサージしても、ストレッチしても、一時的に楽になってもまた戻ってしまう。これが、多くの方が経験している現実だと思います。

OQでの股関節アプローチ

目標は、軟骨を元に戻すことではありません。そこに過剰な期待を置くと、かえって遠回りになります。代わりに目指すのは、次の4つです。

  1. 股関節にかかる荷重パターンを変える——骨盤・腰椎・足首を整え、左右均等に体重が乗るようにする
  2. 関節まわりの筋肉が働ける環境を作る——特に眠ってしまった中臀筋・大臀筋を目覚めさせる
  3. 歩き方の質を変える——歩行分析で「どこに無理が集中しているか」を見て、必要ならインソールで補う
  4. 関節液の循環を促す——無理のない範囲で関節を動かし、軟骨に栄養が届く状態を維持する

この4つを組み合わせることで、画像上の変形はそのままでも、痛みや可動域は改善する方は少なくありません。

「手術を勧められているけれど、その前にできることがあれば試したい」「人工股関節の決断をする前に、もう一度体と向き合いたい」——そういう方のご相談にも乗っています。

よくある質問

変形性股関節症でも運動していいですか?

はい。むしろ適切に動くことが関節を守ります。ただし「どんな運動を、どの強度で」の選択は大切です。痛みが増えない範囲での歩行、水中運動、お尻まわりの筋力強化が基本になります。自己流でスクワットを始めて悪化する方もいるので、最初は専門家に見てもらうと安全です。

人工股関節手術以外の選択肢はありますか?

変形の程度と生活への支障によります。軽度〜中等度であれば、筋力強化・荷重分散・歩き方の改善・インソールなどで、手術を先延ばしにできたり、痛みを大きく減らせたりするケースはあります。手術は最終手段。その前段階でできることは、実は多いです。

「年齢のせい」と言われて落ち込んでいます。何から始めたらいいですか?

まずは、自分の股関節の状態を全身の視点で見直すことから始めてみてください。歩行の癖、座っている時間、足首の柔軟性、お尻の筋力——これらを合わせて評価すると、「何ができるか」が見えてきます。OQではそのための歩行分析と全身評価を行っています。

最後に

「年齢のせい」という言葉は、医学的には間違っていません。でも、それだけでは片付かない要素がたくさんあります。

ヒトの股関節はそもそも二足歩行という無茶な設計変更を引き受けてきた関節です。そして現代の座りっぱなしの生活は、その無茶にさらに無茶を重ねる環境です。

だからこそ、環境を整え直すことには大きな意味があります。

股関節の痛みで「もう仕方ない」と諦めかけている方、手術までの時間をできるだけ延ばしたい方——一度、全身の視点から股関節を診てみませんか。


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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後自費リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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この記事を書いた人

大村颯太
・理学療法士
・健康科学修士
・発達ケア・アドバイザー上級

Sota Omura
・Physiotherapist
・Master of Health Science
・JEFPA Certified Foot Care Advisor
・Developmental Care Advisor

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