変形性膝関節症——「年だから仕方ない」は本当か

「膝が痛くて整形外科に行ったら、レントゲンを見て『変形性膝関節症ですね』と言われた」
「続けて『年だから仕方ない』と言われて、何もせず帰ってきた」

こういう体験、60代以上の女性を中心にとてもよく耳にします。私が引っかかるのは、「年だから仕方ない」の一言です。年齢が原因の一部であることは否定しませんが、それが「だから何もできない」の根拠にはならない——これが今日お伝えしたいことです。

私は副院長の大村颯太です。京都オステオパシーセンターOQで、下肢・膝・歩行の問題を専門に診ています。変形性膝関節症と診断された方に、「年齢のせい」では片付かない要素と、痛みを管理するためのアプローチをお話しします。

目次

変形と痛みは、必ずしも一致しない

変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減り、関節の縁に骨棘(こつきょく)という突起ができ、関節の形そのものが少しずつ変わっていく状態です。レントゲンで客観的に確認できるため、診断がつきやすい病気です。

でも、ここが大事です。

MRIで膝に明らかな変形があっても、痛みがまったくない方はたくさんいます。 逆に、画像上は軽度の変形しかないのに、強い痛みで歩くのも辛いという方もいる。つまり、「変形の程度」と「痛みの程度」は必ずしも相関しないのです。

これは国際的な研究でも繰り返し示されています。2008年のNEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)の研究では、中高年の膝のMRIを撮ると半月板の変性や損傷がかなりの頻度で見つかりますが、その大半は無症状だと報告されています。

ということは、痛みを引き起こしているのは「変形そのもの」だけではない——他に何があるのでしょうか。

膝の痛みを決めている3つの要素

私が歩行分析で実際に見ている、変形性膝関節症の痛みを強めている要素は、大きく3つあります。

① 荷重パターンの偏り

膝は、太ももから伝わる体重を受けて、すねへと伝える「中継地点」です。そのとき、体重がどの方向から・どこにかかるかで、軟骨にかかる圧のパターンがまったく変わります。

日本人に多いのは内反膝(O脚傾向)で、この場合、膝の内側に体重が偏ってかかります。すると内側の軟骨がすり減りやすく、痛みも内側に強く出ます。これは「O脚だから仕方ない」ではなく、荷重パターンを変えれば内側への負担は下げられるものです。

② 股関節と足首からの影響

膝は、股関節と足首という2つの関節の「間」にある関節です。上と下で動きが制限されていると、その分を膝が肩代わりして動こうとします。

  • 股関節の伸展・内旋が出ないと、歩行中に膝がねじれる方向に負担がかかる
  • 足首の背屈(つま先を上げる動き)が硬いと、歩行の推進力を膝で稼ごうとする
  • 足部のアーチが崩れると、下から膝を内側に引き込む力が増える

「膝だけ」を治療しても効かないのは、こうした上下の関節からのストレスが変わらないから。逆に言えば、股関節と足首を整えると膝の痛みが軽くなるケースは本当に多いです。

③ 筋力と衝撃吸収能力

膝への衝撃を最終的に受け止めているのは、軟骨だけではありません。大腿四頭筋(太ももの前)と臀部の筋肉が、歩行中の着地で膝にかかる衝撃をしっかり吸収できていれば、軟骨への負担は大きく下がります。

加齢とともに筋力が落ち、衝撃吸収能力が下がる——すると同じ歩き方でも、膝への衝撃が何倍にもなってしまう。これが「年齢とともに変形性膝関節症が悪化する」もう一つの理由です。「年だから」の本当の中身は、「筋力と動きの質が落ちたから」なのです。

エビデンスが示す「できること」

国際的なガイドライン(OARSI ガイドライン 2019)でも、変形性膝関節症に対する第一選択は運動療法・体重管理・教育だとされています。手術や薬は、それらで改善しない場合に検討される位置づけです。

さらに、デンマークで行われた大規模試験(Skou et al. NEJM 2015)では、非手術的なリハビリと比較した場合、人工膝関節手術は確かに追加の効果があるものの、リハビリ単独でも痛みと機能は大きく改善することが示されました。「手術以外では変わらない」というのは、現代の医学の標準的な見解ではないのです。

OQでの変形性膝関節症アプローチ

OQでは、変形性膝関節症の方に対してこんな順番で診ていきます。

  1. 歩行分析——立位・歩行で、膝のどの方向にどれくらいの負荷がかかっているかを観察する
  2. 上下の関節評価——股関節と足首の可動域、筋力のバランスをチェック
  3. オステオパシー手技——膝・股関節・足首・骨盤の制限を整える
  4. 必要に応じてインソール——荷重パターンを整え、内側への偏りを減らす
  5. 筋力強化とセルフケア——大腿四頭筋・中殿筋を中心に、痛みが出ない範囲での運動指導

「手術を勧められているが、その前にできることがあれば試したい」「人工関節の決断をする前に、もう一度体と向き合いたい」——そういう方のご相談にも乗っています。

よくある質問(FAQ)

Q. 歩くと痛いのですが、歩いていいですか?

A. 痛みのレベル次第です。「少し痛いけど歩ける」程度なら、むしろ歩くこと自体が関節液の循環を促し、軟骨の健康を守ると考えられています。逆に完全に動かないと筋力がさらに落ち、衝撃吸収能力が下がって悪循環に入ります。痛みが強い時期は距離や路面を調整し、少しずつ動く習慣を保つことが大切です。

Q. サプリメント(グルコサミン等)は効きますか?

A. 国際的ガイドラインでは、グルコサミン・コンドロイチンなどのサプリメントに対して積極的な推奨はされていません。効果があるとする研究もありますが、質の高いメタ分析では効果はごく限定的か不明とされています。「試してみて楽になれば続ける」くらいの位置づけが現実的です。運動療法や体重管理の方が、はるかに大きな効果が期待できます。

Q. 手術を勧められています。受けるべきですか?

A. 痛みと生活への支障のレベル、保存療法をどこまで試したかで判断が変わります。保存療法(運動療法・手技・インソール等)を適切に行わずに手術に踏み切ると、術後も痛みが残るケースがあります。逆に、保存療法で十分改善しない場合の人工膝関節手術は非常に成功率の高い手術です。「手術以外にできることをやり尽くしたか」という視点で判断することをおすすめします。

Q. 変形が戻ることはありますか?

A. 骨の変形そのものが元の形に戻ることは、保存療法ではほぼ期待できません。ただし、変形があっても痛みや機能は改善できるというのが大切なポイント。「変形を戻すこと」をゴールにせず、「今の膝で最大限動ける・痛まない状態」を目指すのが現実的です。

最後に

「年だから仕方ない」という言葉は、医学的にはある程度正しい部分もあります。でも、それが「だから何もできない」の結論につながるのは、今のエビデンスから見ると少し古い考え方です。

変形があっても、痛みはマネジメントできる。動きの質を変えれば、進行のスピードも変わる。手術は最終手段として残しつつ、その前にできることはたくさんある——これが、今日の医学の到達点です。

「年だから仕方ない」と諦める前に、一度膝だけでなく体全体から見直してみてください。変わるものは、思っているより多いです。

参考文献

本記事の変形性膝関節症の病態・保存療法・手術適応に関する内容は、以下の文献を参考にしています。

書籍

  • Earls, J. Born to Walk: Myofascial Efficiency and the Body in Movement (2nd ed.). North Atlantic Books, 2020.
  • Neumann, D. A. Kinesiology of the Musculoskeletal System: Foundations for Rehabilitation (3rd ed.). Mosby, 2016.
  • Sahrmann, S. A. Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes. Mosby, 2002.
  • Kapandji, A. I. The Physiology of the Joints, Volume 2: The Lower Limb (7th ed.). Handspring Publishing, 2019.
  • Dicharry, J. Anatomy for Runners. Skyhorse Publishing, 2012.

研究論文・臨床ガイドライン

  • Bannuru, R. R., Osani, M. C., Vaysbrot, E. E., et al. (2019). OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage, 27(11), 1578–1589. https://doi.org/10.1016/j.joca.2019.06.011
  • Skou, S. T., Roos, E. M., Laursen, M. B., et al. (2015). A randomized, controlled trial of total knee replacement. New England Journal of Medicine, 373(17), 1597–1606. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1505467
  • Englund, M., Guermazi, A., Gale, D., et al. (2008). Incidental meniscal findings on knee MRI in middle-aged and elderly persons. New England Journal of Medicine, 359(11), 1108–1115. https://doi.org/10.1056/NEJMoa0800777
  • Sharma, L., Song, J., Felson, D. T., Cahue, S., Shamiyeh, E., & Dunlop, D. D. (2001). The role of knee alignment in disease progression and functional decline in knee osteoarthritis. JAMA, 286(2), 188–195. https://doi.org/10.1001/jama.286.2.188
  • Roos, E. M., & Arden, N. K. (2016). Strategies for the prevention of knee osteoarthritis. Nature Reviews Rheumatology, 12(2), 92–101. https://doi.org/10.1038/nrrheum.2015.135

※ 本記事は一般向けの情報提供を目的としています。強い痛みや日常生活に大きな支障がある場合は、整形外科医の診察を優先してください。


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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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この記事を書いた人

大村颯太
・理学療法士
・健康科学修士
・発達ケア・アドバイザー上級

Sota Omura
・Physiotherapist
・Master of Health Science
・JEFPA Certified Foot Care Advisor
・Developmental Care Advisor

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