「軟骨がすり減っているから痛いんです」——整形外科でそう説明された方は多いはずです。
レントゲンの黒いラインを指さされて、「ここが軟骨です。減っていますね」と言われると、誰でも納得してしまいます。
でも、もし軟骨と痛みが、実はそれほど相関しないとしたら——どう思われるでしょうか。
こんにちは、副院長の大村颯太です。前回の記事では「変形性膝関節症は年齢のせいだけでは説明できない」というお話をしました。今回はその続編として、画像所見と痛みのギャップと、その先にある膝のケアの視点をお伝えします。
画像所見と痛みは、実は一致しない
整形外科領域には、膝のレントゲン・MRIと自覚症状の関係を調べた大規模研究がいくつもあります。そして繰り返し報告されているのは、次のような事実です。
- 軟骨がほぼ消失していても、痛みのない人が一定数いる
- 軟骨が比較的残っていても、激痛を訴える人がいる
- 両者の相関は、思ったほど強くない
つまり「軟骨=痛みの唯一の原因」ではない、ということです。
これは大切な視点です。なぜなら、軟骨は基本的に再生しない組織だからです。「軟骨が減ったから痛い」と理解してしまうと、「軟骨が戻らないなら、もう痛みは消えない」という諦めにつながりかねません。
でも実際には、軟骨の状態と独立して、痛みは増えたり減ったりします。だから希望があるのです。
膝の痛みの「本当の正体」
では、痛みはどこから来ているのでしょうか。
膝関節の周囲には、軟骨よりもはるかに多くの痛みセンサーを持つ組織が存在します。代表的なものは——
- 滑膜(かつまく)——関節の内側を覆う膜。炎症で腫れて痛みを出す
- 半月板の外縁部——小さな損傷でも痛みやすい
- 膝蓋下脂肪体(しつがいかしぼうたい)——お皿の下の脂肪組織。膝の中でも最も痛みに敏感な部位の一つ
- 関節包——過剰な張力がかかると痛む
- 周囲の筋・腱の付着部——負担が集中すると痛む
意外なことに、軟骨そのものには神経がほとんど通っていません。だから、「軟骨がすり減る」こと自体は、痛みの間接的な要因ではあっても、直接の発生源ではないのです。
痛みを訴えて来られる方の膝を診させていただくと、本当の犯人は滑膜の炎症だったり、脂肪体の癒着だったり、太ももの筋緊張だったり——軟骨以外のどこかであることがほとんどです。
何が痛みを作り、何が痛みを消すか
整理してみます。
痛みを作る要因:
- 膝関節周囲の炎症(滑膜炎)
- 関節内外の循環低下(血流・リンパの停滞)
- 周辺筋群の過緊張(太ももの前・内側など)
- 股関節・足部からの連鎖的ストレス
- 長時間の同じ姿勢、急な動作の負荷
痛みを減らす要因:
- 適切な範囲の動きによる滑液循環
- 関節周囲の筋バランスの回復
- 全身配列(足首・股関節・骨盤・背骨)の調整
- 炎症期の適切な休息
- 痛みのない範囲での歩行と筋力維持
こうして並べてみると、「軟骨を元に戻す」ことはできなくても、痛みを減らすためにできることは、実はたくさんあるとわかってきます。
「歩いた方がいい」のか「休んだ方がいい」のか
来院される方からよく受ける質問です。
答えは、「その日の膝の状態による」です。
- 急性炎症期(膝が腫れて熱を持ち、安静時にも痛む)→ 休息とアイシング優先。無理に歩かない
- 慢性期(腫れは引いたが、動かすと痛む)→ 痛くない範囲での適切な動きが必要
- 機能低下期(痛みは落ち着いたが、可動域や筋力が落ちている)→ 積極的な運動とリハビリ
同じ「変形性膝関節症」でも、その日の膝が3つのどの段階にあるかで、選ぶべき対応は真逆になります。
これを自己判断するのは正直なところ難しいので、最初は専門家の評価を受けて、自分の膝が今どの段階か知っておく方が安全です。
膝は「上下からのストレスを受け止める関節」
もう一つ、続編としてどうしてもお伝えしたい視点があります。それは、膝は単独では悪くならないということです。
膝関節は、足首と股関節という2つの大きな関節のあいだにあります。
足首の動きが固いと、地面からの衝撃が膝に集まる。股関節の動きが少ないと、本来は股関節がやるべき回旋動作を膝が肩代わりしてしまう。骨盤が傾いていると、片側の膝にばかり体重が乗る——。
つまり、膝の痛みを訴える方の身体を診ていくと、膝そのものは「被害者」であることがほとんどです。本当の加害者は、足首だったり股関節だったり、骨盤だったりします。
膝だけにマッサージしても、サポーターを巻いても、ヒアルロン酸を注射しても——上下からのストレスが続いていれば、膝はまた悲鳴を上げます。これが「治療を続けているのに楽にならない」状態の正体だと、私は考えています。
OQで行う膝へのアプローチ
OQでは、膝の痛みを訴えて来られた方にも、膝だけを診ることはほとんどありません。代わりに、膝に負担を集めている上下の構造を一緒に評価します。
- 足部アーチの状態——下からの衝撃をどれだけ吸収できているか
- 足首の可動性——衝撃吸収の第一段階。ここが固いと膝に直撃する
- 股関節の可動性——膝の回旋ストレスを減らす
- 骨盤の傾き——下肢全体のアライメントの土台
- 背骨の柔軟性——重心のコントロールと全身連動
これらを手技で整え、歩行指導と、必要に応じてインソールでサポートします。「軟骨は戻らないけれど、膝の痛みは減らせる」——この道筋を一緒に歩いていく、というのが私たちのアプローチです。
「手術しかない」と言われている方も、その前にできることは多くあります。少なくとも、手術までの時間を快適に過ごす方法は、必ずあると思っています。
よくある質問
Q. 軟骨が減っていると言われたら、もう運動はやめた方がいいですか?
A. 状態によりますが、原則として動きをやめる方が悪化するケースが多いです。動かないことで筋肉が落ち、関節の循環が悪くなり、結果として痛みが増えます。痛みのない範囲での歩行や水中運動、お尻まわりの筋トレは、むしろ膝を守ります。「やめる」ではなく「選ぶ」が正解です。
Q. ヒアルロン酸注射は意味がありますか?
A. 効果には個人差が大きい治療です。やむを得ない場合、一時的に利用するのは構いませんが、長期使用はおすすめしません。
Q. 手術を勧められています。決断する前にできることはありますか?
A. はい、あります。手術前に膝周囲の筋力を整え、歩き方を見直し、上下の関節の動きを改善しておくと、術後の回復が早くなることが知られています。また、手術以外の選択肢で痛みを減らせるかどうか、もう一度評価する価値もあります。手術は最終手段で、戻れない決断です。その前段階でできることを尽くしてから決めても、遅くはありません。
最後に
「軟骨がすり減っているから痛い」——この説明は、半分は正しく、半分は不十分です。
軟骨は痛みの最終産物ではあるけれど、痛みそのものは滑膜・脂肪体・筋・腱・全身連鎖からやってきます。だから、軟骨が戻らなくても、痛みを減らす道は残されているのです。
「もう仕方ない」と諦めかけている方、画像所見と痛みの強さが一致しないと感じている方、手術を勧められて迷っている方——一度、膝を全身の連鎖の中で診てみる時間を作ってみませんか。
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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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