マッスルエナジーテクニックとは?患者さんの能動性を活かす手技
はじめに
こんにちは、京都オステオパシーセンター2Fの大村颯太です。当院の大村は、患者さんお一人おひとりの状態に合わせて、必要に応じて「マッスルエナジーテクニック(MET)」という手技を施術に取り入れています。METは、施術者が一方的に体を動かすものではなく、患者さんご自身に軽く力を出していただきながら、関節や筋肉を整えていくという、少し変わった手技です。今回は、このMETがどのような歴史を持ち、実際にどのようなことをしていて、身体の中でどのような変化が起こっているのかを、できるだけ分かりやすく整理してお伝えしていきます。
第一章:マッスルエナジーテクニックの歴史的背景 ― ミッチェル親子による誕生
METは、1948年頃にアメリカのオステオパス、フレッド・ミッチェル・シニア(Fred L. Mitchell Sr.)によって提唱された手技です。最初に発表された『The Balanced Pelvis and Its Relationship to Reflexes』という骨盤と姿勢反射に関する論文の中で、骨盤の機能不全に対して、患者さん自身の筋収縮の力を治療的に使うという、当時としては非常にユニークな発想が示されました。その後、息子であるフレッド・ミッチェル・ジュニア(Fred L. Mitchell Jr.)が父の手技を体系化し、1995年以降に出版された『The Muscle Energy Manual(Vol.1〜3)』によって、骨盤・脊柱・四肢へのMETが世界中に普及していきます。さらに、フィリップ・グリーンマン(Philip E. Greenman)が著書『Principles of Manual Medicine』のなかで、METをマニュアルメディスン全体の中に位置づけ、オステオパシーだけでなく理学療法や整形外科リハビリテーションの世界にも橋を架けました。近年では研究者ゲアリー・フライヤー(Gary Fryer)らによって、METの機序とエビデンスがあらためて整理され直され、単なるストレッチ手技ではなく、神経・筋・組織・知覚にまたがる複合的な手技として理解されるようになっています(Fryer, 2011)。
第二章:実際にどんなことをするのか ― 能動的に動きながら関節を整える
施術中の流れは、一見とてもシンプルです。まず施術者が、患者さんの関節を「動きが少し制限されているところ(バリア)」までゆっくりと誘導します。その位置で「この方向に、軽く力を入れてみてください」とお声がけし、患者さんに軽い等尺性収縮(位置をほとんど変えない筋収縮)をしていただきます。一般的には最大筋力の20〜25%程度のごく軽い力を、5〜7秒ほど維持していただきます。そのあと、息を吐きながら力を抜いていただき、施術者は新しく得られた可動域まで関節をやさしく誘導していきます。これを2〜4回ほど繰り返すことで、可動域が広がり、関節の動きの質も整っていきます。「能動的に動きながら関節を調整する」と表現されるのは、まさにこの「患者さんご自身の軽く動こうとする力」を治療の主役にしているからです。受け身で施術を受けるのではなく、ご自身の体と相談しながら一緒に動かしていく感覚は、術後の身体の使い方の学習にもつながりやすいと臨床で感じています。実際、ハムストリングの柔軟性に対するMETの効果は、単純な静的ストレッチに比べて可動域の改善が大きいというランダム化比較試験の報告があり、こうした能動的な収縮を組み合わせるアプローチの有用性が示唆されています(Ballantyne et al., 2003)。
第三章:神経生理学的作用 ― なぜ「軽い収縮」で身体が変わるのか
古典的にMETの作用機序として語られてきたのは、Sherringtonの神経生理学に由来する二つの反射、すなわち「等尺性収縮後弛緩(post-isometric relaxation:PIR)」と「相反抑制(reciprocal inhibition)」です。等尺性収縮の直後には、その筋のゴルジ腱器官などからの抑制性入力により筋緊張が一時的に低下し、関節可動域が広がりやすい状態になると説明されてきました。また、収縮させた筋と拮抗する筋には相反抑制が働き、目的の動きが出やすくなるとされています。一方で、現代の総説では、こうした古典的な反射のみではMETの効果を十分に説明できないと指摘されています。Fryer(2011)はMETの機序をエビデンスに基づいて整理し直し、(1)筋・腱・筋膜の粘弾性の変化、(2)ストレッチに対する痛覚・伸張耐性の調整、(3)感覚入力の変化を介した中枢性の運動制御の再調整、といった複数の要素が組み合わさって効果を生むと述べています。実際、Magnussonら(1996)は等尺性収縮を伴うストレッチと伴わないストレッチを比較し、可動域改善の主たる要因は反射性の筋緊張低下というよりも、組織の機械的特性の変化と、ストレッチへの知覚的な慣れにあることを示唆しています。METはまさに、神経・筋・知覚を一度に動かす「神経筋エクササイズ」としての性格を強く持っているのです。
第四章:神経生理だけにとどまらない多面的な効果 ― 運動学習・循環・バイオテンセグリティ
神経生理学的な側面はMETを語るうえで欠かせませんが、その効果はそれだけにとどまらないと考えています。一つ目は「運動学習」の側面です。METでは、患者さんに「正しい方向へ、適切な強さの収縮」を繰り返し行っていただくため、自分の体を意識して動かす経験そのものが治療になります。これは脳と身体のつながりを再教育するプロセスでもあり、姿勢や動作の癖を変えていく入り口となり得ます。二つ目は「循環」の側面です。等尺性収縮と弛緩のリズミカルな繰り返しは、ポンプのように筋内・筋膜内の循環を促し、組織の代謝環境を整える可能性が示唆されています。三つ目は「バイオテンセグリティ的な張力構造の調整」の側面です。身体は骨と筋膜・靱帯による張力ネットワーク(テンセグリティ構造)として機能しており、ある関節に偏った張力がかかると、離れた部位にもひずみが波及することが知られています。METで局所の張力を整えることは、結果として全身の張力バランスを再分配し、姿勢や動きの「立て直し」につながると捉えられます。さらに、痛覚調整・自律神経調整・心理的な安心感など、複数のレイヤーが重なって全体としての変化が生まれるとも考えられています。
おわりに
当院ではこうした多面的な効果を踏まえ、METを単独の手技として用いるのではなく、評価とその他のオステオパシー手技と組み合わせながら、患者さんの体に合わせて活用しています。「自分の力で整っていく感覚」を一度体験していただけると、ご自身の身体への信頼が少しずつ取り戻されていくのではと感じています。気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
(Fryer, 2011) Muscle energy technique: An evidence-informed approach. I: The mechanisms
(Ballantyne et al., 2003) The effect of muscle energy technique on hamstring extensibility: The mechanism of altered flexibility
(Magnusson et al., 1996) Mechanical and physical responses to stretching with and without preisometric contraction in human skeletal muscle
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