傷がふさがるとき、体は誰かの指示を待っていません。細胞が近くの様子を読み取り、その場で順番に仕事を進めていきます。
OQでは、傷の回復を「傷の場所だけの出来事」とは考えていません。体はひとつづきなので、傷のまわりで起きたことは、少し離れた場所の動きにも関わってきます。OQが最初にお伝えしたいこともあわせてどうぞ。
あの切り傷、いつふさがったか覚えていますか?
料理をしていて、指をすっと切ってしまう。あわてて絆創膏を貼って、その日は少しだけしみて、翌日には気にならなくなって——気づいたときには、うっすら跡が残っているだけ。そんな経験、たぶん何度もありますよね。
そのあいだ、あなたは何をしましたか。おそらく、ほとんど何もしていません。「まず血を止めて、次に汚れを片づけて、それから中身を埋めて」と体に指示を出した人はいない。それなのに、体は勝手に段取りを組んで、順番どおりに仕事を終わらせていました。
あたりまえすぎて、ふだんは立ち止まらないところです。でも、ここに体のいちばん基本的な性質が出ています。今日はそれを、一緒にたどってみたいと思います。
設計図がないのに、なぜ順番どおりに進むのでしょう?
体のどこかに「傷の直し方マニュアル」が保管されていて、けがをするとそれが取り出される——そんなイメージを持つ方は多いと思います。でも、実際に起きていることは、もう少し素朴です。
傷のまわりにいる細胞は、全体の完成図を知りません。知っているのは「いま、となりで何が起きているか」だけ。血が漏れていれば、止める方向に働く。壊れた材料が散らばっていれば、片づけるものが集まってくる。すき間があれば、埋めるものが増える。そして、その場所が引っぱられる向きがあれば、繊維はその向きに並び直っていく。
つまり体は、設計図を実行しているのではありません。そのとき置かれた条件に応えているだけです。その小さな応答が積み重なった結果として、傷はふさがる形になる。
これは、赤ちゃんの体ができていく過程を長く研究してきた人たちが、繰り返し言ってきたことでもあります。形はあらかじめ描かれた絵のとおりに作られるのではなく、まわりの条件に応え続けた結果として立ち上がってくる(Torsten Liem『Foundations of Morphodynamics in Osteopathy』/Track B+)。傷の修復は、その小さな再現とも言えます。
アリの行列に指揮官がいないのと似ています。一匹ずつは目の前のことしか見ていないのに、全体としては筋の通った道ができる。こうした「中央の指令なしに秩序が立ち上がる」現象は、複雑系という分野でずっと扱われてきました(Ching ほか『Enabling health potential — complex systems theory』/Track B+)。
修復には順番があります
ざっくり言うと、四つの仕事が順にめぐります。止める → 片づける → 埋める → 編み直す。前の仕事が終わらないと、次にはうまく進めません。
意外に思われるのが、最後の「編み直す」の長さです。見た目がふさがったあとも、体は内側で材料を並べ替え続けます。数か月、場所によってはもっと長く。「見えなくなった=終わった」ではないのです。
150年ほど前にオステオパシーを始めた A.T. Still も、必要なものは体の中にすでに備わっている、という見方に立っていました(『A.T. Still's Four Books』/Track A)。手を加えて修復を起こすのではなく、体がすでにやっていることの邪魔を減らす。この見方は、いまも変わっていません。
OQでは、傷のまわりの何を見ているのでしょう?
正直に書きます。施術で修復そのものを起こすことはできません。それは体の仕事です。私たちが見ているのは、その仕事がしやすい条件が整っているかどうかだけです。
順番としては、内側から外へ広げていきます。まず傷のまわりの組織が、皮膚の下でちゃんと滑れているか。次に、その場所を通っている力の道筋が、遠回りしていないか。最後に、呼吸や体液の流れといった全身の条件。材料と情報が届かないと、体はうまく編み直せないからです。
痛む場所と、動きが止まっている場所は、しばしば別です。そのあたりはなぜ痛くない場所を触るのかで詳しく書いています。
OQは医療機関ではありません。けがの診断、傷の処置、薬の処方は医師が行います。ここに書いたことは、医療機関での診断や処置に置き換わるものではありません。
家でできることは、何かありますか?
体の仕事を速める裏技はありません。できるのは、材料と条件をそろえて、邪魔をしないことです。
- 完全に止めない。動かさないでいると、傷のまわりの組織はくっついたまま固まりやすくなります。痛みが強くならない範囲で、そっと動かしておくほうが編み直しは進みます。
- 追い込みすぎない。翌日に痛みや腫れを持ち越すなら、その日は行きすぎです。
- 食べる。皮膚も筋膜も、材料はたんぱく質です。食が細い時期は、修復も細くなります。
- 眠る。修復の多くは眠っているあいだに進みます。ここを削ると、他の努力が効きにくくなります。
- 水を飲む。組織のあいだを材料が移動するには、水が要ります。
こんなときは、先に医療機関へ
体は多くのことを自分で進めますが、外からの手当てが要る場面もあります。次のようなときは、施術より先に医療機関を受診してください。
- 赤み・腫れ・熱っぽさ・膿が、日ごとに増えていく
- 傷とともに発熱がある
- いったん閉じた傷が、また開いてきた
- 傷の先のほうにしびれや、動かしにくさがある
- 糖尿病などで、傷の回復が遅くなりやすいと言われている
- 痛みが強くなる一方で、眠れない
迷ったときは、先に医療機関で診てもらってください。そのうえで、体が回復しやすい条件を整える段階から、私たちがお手伝いできます。
よくある質問
傷あとは、いつか消えますか?
完全に元どおりの皮膚に戻ることは、多くの場合ありません。修復された組織は、もとの組織とは並び方が違うからです。ただし見た目も硬さも、時間とともに変わり続けます。数か月から年単位で、少しずつ落ち着いていくことが多いです。
見た目がふさがれば、もう普通に動かして大丈夫ですか?
表面が閉じた時点では、内側の編み直しはまだ途中です。急に全力で使うより、痛みを翌日に持ち越さない範囲で少しずつ増やしていくほうが、結果として早く戻りやすくなります。
古い手術の傷が、今の不調と関係することはありますか?
関係することがあります。傷のまわりの組織が滑りにくくなると、その分だけ他の場所が余計に動いて補うためです。何年も前の手術痕が、離れた場所の張り感と関わっている例は珍しくありません。開腹手術の傷がつっぱるときもご覧ください。
傷が閉じたのに痛みが残るのは、なぜですか?
組織の修復と、痛みの感じ方は別のしくみで動いています。組織が落ち着いたあとも、神経の側が警戒を続けていると痛みは残ります。詳しくは傷が癒えても痛みが止まらない理由で説明しています。
回復を早くする方法はありますか?
速度そのものを上げる方法は、残念ながらありません。できるのは、遅くしている要因を減らすことです。睡眠不足、食事量の不足、動かさなすぎ、動かしすぎ——このあたりを整えると、体は本来の速さに近づきやすくなります。
まずは一度、ご相談ください
傷のあとの張り感や、手術のあとの動かしにくさ。どこから手をつければいいか分からないときも、そのままお話しください。今の体の状態を一緒に確認するところから始めます。
ネット予約:24時間受付フォーム/LINE:友だち追加してご相談
お電話:075-822-3003(受付 9:00〜22:30・21:30最終受付)
料金は料金のご案内をご覧ください。
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✍️ 執筆:坂田 雄亮(院長)BSc(Ost)
Swansea University, Wales, UK にてオステオパシー学士号を取得。ベルギーの卒後教育機関 morphologicum にて、5年制コースの EVOST(オステオパシー領域における進化医学)を修了。The Institute of Classical Osteopathy(英国)修了・M.I.C.O.。Cranial Academy (USA) 40時間頭蓋プログラム修了。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格)。臨床経験25年以上。2007年2月に京都オステオパシーセンターOQを開業。
国家資格3種を保有していますが、OQで提供する施術はオステオパシーのみです。