なぜ痛くない場所を触るのか — オステオパシーが「全身」を診る理由

「腰が痛くて来たのに、頭を触るんですか?」

初めてOQに来られた方から、いちばんよくいただく質問です。

肩がつらいのに、足首を診ている。膝が痛いのに、お腹に手を当てている。

「ちょっと変だな」と思われるのは、当然です。

でも、ちゃんとした理由があります。今日はその「なぜ」を、できるだけわかりやすくお話しします。

体はセーターのようにつながっている

お気に入りのセーターを想像してください。

その裾を、ぐっとつまんで引っ張ると、どうなりますか? 裾だけが伸びるわけではありません。肩のあたりまで、全体が引っ張られます。編み目が一つひとつつながっているから、一箇所の引っ張りが全体に伝わるのです。

体にも「筋膜(きんまく)」という、セーターの編み目のような膜があります。筋肉を包んでいる膜ですが、筋肉だけを包んでいるのではなく、骨も、内臓も、血管も、神経も——すべてをつなげている、一枚の膜です。

だから、足首をひねったことが肩に影響することがある。おなかの手術の痕が、腰の痛みに関係していることがある。

体にはバラバラの「パーツ」はありません。すべてはつながっています。

力は足首から頭蓋骨まで伝わる

足首を捻挫して来られた方に、頭に手を当てることがあります。

「足が痛いのに、なぜ頭を?」

捻挫のとき、足首の骨や靭帯が傷ついているのはもちろんですが、捻挫の力は足首で止まりません。膝へ、骨盤へ、背骨へ——セーターの編み目を伝うように、力は上に伝わっていきます。

頭蓋骨、背骨、仙骨(お尻の三角の骨)——この3つは「硬膜」という一本の硬い膜でつながっています。柱のどこかにねじれが生まれれば、柱の他の部分にも影響が及びます。ホースがねじれれば、中の水の流れが変わるように。

私たちが足首の捻挫で頭を触るのは、力がどこまで伝わったかを確認しているのです。

逆に、頭のぶつけた痕が長年の腰痛の原因になっていることもあります。力は上から下にも伝わります。

力の伝達 — 足首から頭蓋骨へ 体はつながっている。力はどこにでも伝わる。 足首 骨盤 背骨 頭蓋骨 硬膜(こうまく) 頭蓋骨〜仙骨をつなぐ一本の膜。 柱のどこかがねじれると全体に影響。 筋膜(きんまく) 全身をつなぐセーターの編み目。 一箇所を引っ張ると全体に伝わる。 力の伝達 捻挫の力は足首で止まらない。 膝→骨盤→背骨→頭蓋骨へ伝わる。 ↑ だから頭も診る。 逆方向も同じ 頭をぶつけた古い痕が 長年の腰痛の原因に なっていることもある。 京都オステオパシーセンターOQ | o-q.jp

10年前の傷あとが、今の腰に

少し意外な話をします。

10年前のおなかの手術。帝王切開の痕。盲腸の手術痕。それが、今の腰の痛みや肩のこりに関係しているかもしれません。

手術でメスを入れると、体は傷を修復します。でも、修復された場所は少しだけ硬くなります。布を縫い合わせたところが少し引きつるように。

その「引きつり」が、筋膜のつながりを通じて、離れた場所にまで影響する。

初めての方に「過去に手術を受けたことはありますか?」とお聞きするのは、このためです。今の体は、過去のすべてを含んでいます。

修理屋ではなく、庭師の仕事

体の不調を扱うとき、二つの考え方があります。

一つは修理屋さんの考え方。「どこが壊れていますか?」と聞いて、壊れたパーツを直す。腰が痛ければ腰を、肩が痛ければ肩を。とてもわかりやすいアプローチです。

もう一つは庭師の考え方。庭師は枯れた葉っぱだけを見ません。土地の全体を歩いて、水の流れを読みます。

私たちの仕事は、後者に近い。

庭に水をまくホースのどこかが折れ曲がっていたら、水は先まで届きません。そのとき、蛇口をもっと開けますか? ホースの先端を引っ張りますか?

たぶん、折れ曲がっているところを見つけて、そっと元に戻すでしょう。それだけで、水はまた流れ始めます。

体の中にも、血液、リンパ液、脳脊髄液——さまざまなものが常に流れています。その流れを止めている「折れ曲がり」を見つけて、取り除く。流すのではなく、流れを邪魔しているものを外す。あとは、体が自分で流し始めます。

二つのアプローチ 修理屋さん 壊れたパーツを見つけて直す ここが痛い 「腰が痛い? 腰を直そう」 壊れた部品 → 修理 わかりやすいが、原因は残ることも 庭師 土地全体の水の流れを読む 流れの妨げ (ここを取り除く) 痛み(結果) 「腰が痛い? まず全身の流れを読もう」 流れの妨げ → 除去 体が自分で整え始める OQのアプローチ = 庭師型 ── 流れを邪魔しているものを取り除く

150年前の医師が言ったこと

今から150年ほど前、オステオパシーを始めたアメリカの医師A.T.スティルは、こう言いました。

「病気を見つけることは誰にでもできる。医師の仕事は、健康を見つけることだ」

体の中には、不調を抱えているときでも、ちゃんと動いている場所があります。その「まだ元気な場所」を手がかりに、止まっている場所を見つける。「何が壊れているか」ではなく、「どこがまだ健やかに動いているか」から始める。これが私たちの体の読み方です。

そしてスティルはもう一つ、こう言いました。

「見つけよ、整えよ、あとは任せよ(Find it, fix it, leave it alone)」

痛い場所はすでにわかっています。でも、その痛みを生み出している「流れの妨げ」がどこにあるかは、全身を読まなければわかりません。だから全身に手を当てるのです。

「まっすぐにする」ではなく、「しなやかさを取り戻す」

「歪みを直しましょう」——よく聞く言葉ですが、私たちの考え方は少し違います。

五重塔を思い浮かべてください。地震の多い日本で、何百年も倒れずに建っています。理由の一つは、塔が「しなる」から。揺れが来たとき、各層が少しずつ動いて力を逃がします。

体も同じです。歪めること自体は悪くありません。歪めるということは、力を受け流せるということ。問題は、歪んだまま固まってしまうことです。

だから私たちがやるのは、「歪みをまっすぐにする」ことではなく、固まった体にもう一度「しなやかに動けるゆとり」を取り戻すこと。まっすぐで固い体より、少し歪んでいてもよくしなる体、痛い場所だけを直すのではなく、体全体のしなやかさを取り戻す。だから、全身を診るのです。

OQの約束

施術中、手の下で何かが変わる瞬間があります。呼吸が深くなる。組織がゆるむ。そのすべてを完全に説明できるかと聞かれたら、正直に「できない部分がある」と答えます。

わかることは丁寧に説明します。わからないことは、わからないと言います。「わかったふり」は、しません。

でも、一つだけ確かなことがあります。

ほんとうに体を整えているのは、私たちではありません。あなたの体そのものです。

私たちは、その力が働ける条件を整えているだけです。


よくある質問

痛い場所を直接触ってもらうことはないのですか?

もちろんあります。痛い場所を確認し、直接アプローチすることもあります。ただし、そこだけで終わらず、痛みの原因になっている離れた場所も一緒に整えます。

頭を触られるのは怖くないですか?

とても軽い力で触れています。5グラム程度——手紙を持ち上げるくらいの力です。痛みを感じることはまずありません。むしろ「気づいたら寝ていた」とおっしゃる方が多いです。

全身を診るのに、なぜ40〜60分で足りるのですか?

全身を「くまなく触る」のではなく、全身を「読んで」、いちばん大きな妨げを見つけて取り除くのが私たちの仕事です。25年以上の臨床経験を通じて、手は効率よく「読む」ことを覚えてきました。

毎回同じ場所を触るわけではないのですか?

はい。体は毎日変わります。前回いちばんの妨げだった場所が解消されれば、次に大きな妨げが別の場所に現れます。毎回、その日の体に合わせて手を当てています。


坂田雄亮(Yusuke Sakata)
BSc(Ost)オステオパシー学士
京都オステオパシーセンターOQ 院長
臨床経験25年以上(2007年開業)

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