膝の変形性関節症は、日本で約2,500万人が罹患しているとも言われる非常に身近な疾患です。加齢、体重、使い過ぎ——よく挙げられる原因はいくつかありますが、「そもそもなぜ人間の膝はこんなにも壊れやすいのか」という問いに答えてくれるのが、進化医学の視点です。
二足歩行という「進化のトレードオフ」
人間は約600万年前に二足歩行を始めたとされています。四本の足で歩いていた時代、体重は4つの関節に分散されていました。二足歩行に移行したことで、その負荷が2つの膝に集中するようになりました。
さらに、二足歩行に適応するために骨盤の角度が変わり、大腿骨が内側に傾き(外反角)、膝関節の力のかかり方が変化しました。この構造は歩行の効率を高めましたが、同時に膝の内側に偏った負荷がかかりやすくなるという代償を伴いました。
軟骨は「走り続ける」ことを前提に進化した
進化医学者のダニエル・リーバーマンは、人間の身体は長距離を走る(持久走)ために適応したという仮説を提唱しています。膝の軟骨も、適度な負荷を受け続けることで栄養が供給され、健康を維持する構造になっています。
つまり、膝の軟骨は「使わないと衰える」設計なのです。現代のように長時間座り続ける生活は、進化が想定していなかったシナリオです。運動不足によって軟骨への栄養供給が低下し、変性が進みやすくなるのは、進化と現代生活のミスマッチと言えます。
体重の増加——進化が想定しなかったもう一つの変化
私たちの祖先は、食料が豊富でないなかで活発に動き回る生活をしていました。膝の構造は、そうした体格と活動量を前提に進化しています。
現代の栄養環境と運動量のバランスは、進化が経験したことのないものです。体重が増加すると膝への負荷は歩行時で体重の2〜3倍、階段昇降では5〜7倍にもなります。膝の構造は、こうした持続的な過負荷に耐えるようには設計されていません。
「老化」だけでは説明できない
変形性膝関節症は「加齢による仕方のないもの」と思われがちですが、すべての高齢者が膝に問題を抱えるわけではありません。狩猟採集民の骨格を調べた研究では、現代人に比べて変形性関節症の発生率が低かったという報告もあります。
つまり、加齢は要因の一つですが、それだけでは説明できない。運動パターン、体重、生活様式——これらの「進化とのミスマッチ」が重なったときに、膝は変形性関節症へと向かいやすくなるのです。
オステオパシーの視点——膝だけを見ない
進化医学が教えてくれるのは、膝の問題は膝だけの問題ではないということです。骨盤の角度、足部のアーチ、股関節の可動性、背骨のバランス——二足歩行というシステム全体のなかで膝の負担が決まります。
OQでは、膝の痛みに対しても、身体全体の構造とバランスを評価します。膝周囲の組織にアプローチするだけでなく、膝に偏った負荷がかかっている原因を足部、股関節、骨盤、背骨のつながりの中から探ります。
よくあるご質問
Q. 変形性膝関節症と診断されていても受けられますか?
はい、診断を受けている方も多くお越しになります。オステオパシーは軟骨を再生させるものではありませんが、膝にかかる負荷のパターンを変えることで、痛みや動きやすさに変化が出ることがあります。
Q. 手術を勧められていますが、その前にできることはありますか?
手術を検討されている場合は、主治医の判断を尊重してください。その上で、手術前に身体全体のバランスを整えておくことは、術後の回復にも良い影響を与える可能性があります。オステオパシーは手術の代替ではなく、身体の環境を整える補助的な役割です。
Q. 「進化のミスマッチ」を個人レベルで改善できますか?
進化を変えることはできませんが、身体の使い方を変えることは可能です。適度な運動、長時間の座位を避けること、体重管理——こうした生活習慣の調整は、進化が設計した身体の機能を引き出す方向に働きます。オステオパシーは、身体が動きやすい状態を整えるお手伝いをします。
お気軽にご相談ください
膝の痛みは「仕方がないもの」ではなく、身体全体のバランスの中で理解できるものです。進化の視点を知ることで、ご自分の膝への向き合い方が変わるかもしれません。
体のことで気になることがあれば
「これって流れの滞りかな」と思いあたることがあれば、一度ご相談ください。京都・大宮のオステオパシー専門院OQが、症状のある場所だけでなく、体全体の巡りから読みといていきます。
✍️ 執筆:坂田 雄亮(院長)
BSc(Ost), Swansea University, Wales, UK/M.I.C.O.(England)/EVOST(Belgium)修了。国家資格 はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師。2007年開業、臨床経験25年以上。身体全体のつながりから不調の根を探ります。
コメント