「雨が降る前になると、決まって頭が痛くなる」
「台風が近づくと、体が鉛のように重くて動けない」
「気圧が下がると、古傷がうずく」
こうした不調を、長いあいだ「気のせい」「気分の問題」と片づけられてきた方は少なくありません。でも、これは気のせいではありません。天気の変化に体が反応するのには、ちゃんとした体のしくみがあります。
この記事では、気象病(天気痛)がなぜ起こるのかを、体の中で何が起きているのかという視点から、できるだけていねいにお話しします。少し詳しい内容ですが、「なるほど、だからか」と腑に落ちると、対処の見通しも立ちやすくなります。
気圧を感じとる「センサー」が体にある
まず知っていただきたいのは、私たちの体には気圧の変化を感じとるセンサーがある、ということです。その中心にあると考えられているのが、耳の奥にある内耳です。
内耳は、音を聞くだけの器官ではありません。体の傾きや回転、加速を感じとる「平衡感覚」の本部でもあります。乗り物酔いをしやすい人がいるのは、この内耳が敏感だからだと考えられています。
そして近年の研究では、この内耳が気圧のわずかな変化も感じとっているのではないか、と考えられるようになってきました。気圧が下がると、内耳のセンサーがそれを察知し、「環境が変わった」という信号を体の中に送ります。
ここで大切なのは、内耳が敏感な人ほど、この信号が強く出やすいという点です。「子どもの頃から乗り物酔いしやすかった」という方が気象病にもなりやすい、と言われるのは、このつながりが背景にあると考えられています。
本当の主役は「自律神経の切り替え」
内耳が「気圧が変わった」と感じとると、その信号を受けて働き始めるのが自律神経です。気象病を理解するうえで、ここが一番の山場です。
自律神経には、大きく2つのモードがあります。
- 交感神経——活動モード。体を緊張させ、動けるようにする
- 副交感神経——休息モード。体をゆるめ、回復に向かわせる
健康な体では、この2つが状況に応じてなめらかに切り替わります。昼は活動モード、夜は休息モード。緊張する場面では交感神経、ほっとすれば副交感神経、というように。
気圧が変化すると、体はそのたびに自律神経を使って体内の状態を調整しようとします。一度の変化なら問題ありません。けれど、梅雨や台風シーズンのように気圧の上下が何日も続くと、体は切り替えを繰り返し求められ、だんだん追いつかなくなります。
切り替えがうまくいかないと、体は中途半端に緊張したまま、あるいはだるさから抜け出せないままになります。これが、頭痛・体の重さ・倦怠感・めまい・気分の落ち込みといった、気象病に特徴的な不調として現れると考えられています。
冊子『体は賢い』でもお話ししている、体の中の「流れ」と「切り替え」の話そのものです。
進化の目で見ると、気象病は「敏感さ」の裏返し
ここで少し視点を変えてみます。そもそも、なぜ人間の体は気圧の変化などに反応するようにできているのでしょうか。
私たちの体は、何百万年という時間をかけて、自然の中で生きるように作られてきました。気圧の変化は、天候の変化のサインです。嵐が来る前に気圧が下がる。それを早めに察知して、体を守る態勢に入る——これは、自然の中で生き延びるうえでは役に立つ能力だったはずです。
つまり、天気の変化に反応する敏感さは、もともと体の「賢さ」の一部でした。
ところが現代の暮らしは、この敏感さと相性がよくありません。一日中室内で過ごし、体を動かす機会が減り、慢性的なストレスにさらされる。すると自律神経の「切り替えの幅」が狭くなり、本来はスムーズだったはずの調整が、こわばってしまいます。
気象病は「体が壊れている」のではなく、もともと備わっていた敏感さが、現代の生活の中でうまく働けなくなっている状態——そう捉えると、向き合い方が変わってきます。問題は気圧そのものではなく、それに対応する体の「余裕」のほうにあるのです。
オステオパシーが見ているところ
OQでは、気象病を「内耳の問題」「自律神経の問題」と部分で切り分けず、体全体のつながりの中で見ていきます。
自律神経は、背骨や頭のまわり、横隔膜などと深く関わっています。たとえば、首の上のほうや頭蓋のまわりがこわばっていると、自律神経が休息モードに切り替わりにくくなると考えられています。呼吸が浅く、横隔膜が動きにくい状態も、体を緊張側に傾けます。
OQが行うのは、こうした体のこわばりをていねいに見て、自律神経が切り替わりやすい体の状態を取り戻す手助けです。気圧を変えることはできませんが、それを受けとめる体の「余裕」のほうは、整えていくことができます。
気象病そのものを「治す」というより、天気の変化に体が振り回されにくい環境を整えていく、という発想です。実際、毎年シーズンに体調を崩していた方が、シーズン前から体を整えておくことで、その年は穏やかに過ごせた、というケースもあります(感じ方には個人差があります)。
今日からできること
来院されない日にも、ご自身でできることがあります。どれも、自律神経を休息側に傾け、切り替えの幅を広げる助けになります。
- 息を「吐く」ほうを長くする——4秒吸って6秒で吐く。吐く呼吸は副交感神経を優位にします。気圧が下がりそうな日は、意識的に
- 耳のまわりをやさしく温める・ほぐす——蒸しタオルや、耳を軽くつまんで回す程度で十分。内耳まわりの血流を促します
- 生活のリズムを一定に——起きる時間・寝る時間をそろえると、自律神経の切り替えが安定します
- シーズン前に整えておく——梅雨や台風の季節が来てからではなく、その手前で体を整えておくほうが穏やかに過ごせます
こんな方は、気象病の傾向があるかもしれません
- 天気が崩れる前日や当日に、頭痛や頭の重さが出る
- 雨や台風の前に、古傷や関節がうずく
- 季節の変わり目に決まって体調を崩す
- 乗り物酔いをしやすい(または子どもの頃しやすかった)
- めまいや耳鳴りを感じることがある
いくつも当てはまる方は、内耳と自律神経の敏感さが背景にあるかもしれません。
よくあるご質問
気象病は「病気」なのですか?
気象病・天気痛は正式な病名ではなく、気圧などの変化で体調が崩れる状態を指す呼び名です。背景には内耳や自律神経の敏感さがあると考えられています。
なぜ女性に多いと言われるのですか?
ホルモンの変動が自律神経に影響しやすいことなどが関係していると考えられています。ただし男性にも起こり、個人差が大きいものです。
薬で抑えるしかないのでしょうか?
つらい症状を和らげるために医療機関で相談することは大切です。それと並行して、自律神経の切り替えやすさを整えるという、体そのものの「余裕」に働きかける方法もあります。
オステオパシーで気象病は治りますか?
「治す」という言い方はしていません。気圧の変化に体が振り回されにくいよう、環境を整えていくお手伝いです。気圧変化への過敏さが穏やかになるケースがありますが、感じ方には個人差があります。
いつ来院すればいいですか?
毎年シーズンに崩れる方には、梅雨や台風の季節が来る前のケアをおすすめしています。すでにつらい時期の方も、もちろんご相談いただけます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。症状が強い場合や長く続く場合は、医療機関にご相談ください。
✍️ 執筆:坂田 雄亮(院長)BSc(Ost)
Swansea大学にてオステオパシー学士号取得。EVOST修了。臨床経験25年以上。自律神経・内臓を含む、全身性の不調に関する臨床を担当しています。
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