山岳地帯の狩猟採集民族の骨格標本には、顎関節症の痕跡がほとんどありません。
現代の都市部では顎関節症は珍しくない。何が変わったのでしょうか。
顎は「硬いものを噛む」ために設計された
人類の咀嚼筋——咬筋・側頭筋・内側翼突筋——は、根菜・堅果・生肉・骨髄など、硬く繊維質な食物を処理するために進化しました。推定では、旧石器時代の人間は1日あたり数千回の咀嚼をしていたとされます。
現代の食事はどうか。パン、麺、加工食品、柔らかく調理された肉。1日の咀嚼回数は江戸時代の約1/6、弥生時代の約1/4になったという推計があります。
使わない筋肉は萎縮し、骨格は再形成される
Blechschmidtの代謝場の概念から言えば、咀嚼筋・顎骨・関節円板の代謝場は「硬いものを噛む繰り返しの負荷」を前提に維持されています。その負荷が激減すると、代謝場の条件が変わる。
具体的には、咀嚼筋の萎縮・顎骨密度の低下・関節円板の荷重パターンの変化が起きやすくなります。さらに、咀嚼筋の退化は上顎・下顎の発育にも影響し、歯が並ぶスペースが減る(歯列不正・親知らずの問題)ことにも関係します。
顎と首は発生学的にひとつながり
顎関節症で来られる方の多くが、同時に頸部痛・頭痛・眼精疲労を訴えます。これは偶然ではありません。
顎骨・側頭骨・後頭骨・頸椎は発生学的に連続した構造体です。顎の噛み合わせと頸椎のアライメント、頭蓋底の張力は互いに影響し合っています。咀嚼筋の慢性緊張は側頭骨・後頭骨の動きを制限し、それが硬膜・脳脊髄液の流れに影響することがあります。
OQが顎関節症を診るとき
顎だけを診るわけではありません。側頭骨・後頭骨・頸椎・頭蓋底の全体的な張力パターン、横隔膜の動きまでを評価します。「顎の問題」ではなく「顎から頸椎・頭蓋底に至る発生学的連続体の問題」として読み取ることが出発点です。
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