オステオパシーを調べていると、たいてい「4つの原則」に行き当たります。身体は一つのユニットである。構造と機能は相互に関係している。身体は自分で整い、治癒しようとする力を持っている——どのサイトにも、ほぼ同じ言葉で並んでいます。
ただ、この4つは、オステオパシーを始めたA.T.スティルという人が書き残した言葉ではありません。彼が亡くなってから36年後、1953年にアメリカの委員会がまとめ直したものです。
だから間違い、という話ではありません。ただ、スティル自身が使っていた言葉は、もう少し違うかたちをしていました。そしてその違いは、OQでお身体をどう診るかに、そのまま関わってきます。このページは、その話です。
スティルが実際に使っていた言葉
スティルは1899年と1902年に自分の考えを本にしています。そこで繰り返し出てくるのは、「構造」という語ではなくForm(かたち)という語でした。
この違いは、思っているより大きいです。「構造」と言うと、柱や梁のような、動かないものが浮かびます。でもスティルの言うFormは、今この瞬間、そのお身体がとっているかたちのことでした。なぜそのかたちになったのか、という経緯を含んだ言葉です。
そしてもう一つ、Vital Motions(生きた動き)。かたちの中で起きている、血液や体液やあらゆる働きの流れです。スティルにとって、この2つは別々のものではありませんでした。かたちが変われば動きが変わり、動きが変われば、時間をかけてかたちも変わっていく。
「つながっている」ではなく、「ここから、そこへ」
スティルの文章を読んでいて印象的なのは、彼が向きのある書き方をしていることです。ねじれている。引っぱられている。押さえこまれている。塞がれている。どれも、何かが先にあって、その結果としてこうなった、という順番を持った言葉です。
「身体はすべてつながっています」という言い方は、たしかに間違いではないのですが、この向きが消えてしまいます。全部つながっているなら、どこから触っても同じ、という話になりかねない。
スティルが立てていた問いは、そうではありませんでした。この結果を生んだ原因は、どこにあるのか。それを探して、そこに手を当てる。あとは身体のほうが仕事をしてくれる、と彼は書いています。
「身体はユニット」はどこから来たのか
1953年、アメリカのカークスビル(スティルが最初の学校をつくった町です)で、オステオパシーの原則を整理する会議が開かれました。ここでまとめられた文章が、今世界中で「4つの原則」として教えられているものです。1997年に一度更新されています。
スティルは「人間は三位一体である」と書いていました。それが1953年に「身体は一つのユニットである」に置き換えられます。「Form と Vital Motions」は「構造と機能は相互に関係している」になりました。
| スティルの原典(1899〜1910) | カークスビル・コンセンサス(1953/1997改訂) |
|---|---|
| 人間は三位一体である | 身体は一つのユニットである |
| Material Form と Vital Motions | 構造と機能は相互に関係している |
| 自然が残りをやってくれる | 身体は自己調節と自己治癒の能力を持つ |
言い換えただけに見えるかもしれません。ただ、実際に起きたのは順番が消えたことでした。スティルの三位一体には上下がありました。今の「ユニット」には、体・心・精神が横並びで置かれています。並べ替えではなく、平らにされた、というほうが近いです。
もう少し詳しく:1953年に何が起きたのか
スティルが使っていた英語は、1828年のウェブスター辞書の語感に沿っています。彼はこの辞書を生涯手元に置いていました。当時のMindは「構想し、判断し、計画する力」、Spiritは「呼吸・風・活力を与えるもの」でした。今の日本語で「マインド」「スピリット」と聞いて思い浮かぶものと、ほぼ逆です。
1902年の著書でスティルは、第一に物質としての身体、第二に生命を動かす存在、第三にその両方を賢く管理する、はるかに優れたものがある、という順序で書いています。三つが対等に並んでいるのではなく、はっきりと階層になっていました。
1953年の書き換えには、時代の事情がありました。当時アメリカのオステオパシーは、医学界から正式な承認を得ようとしている最中でした。「三位一体」という宗教的にも読める言葉は、その場面では扱いにくかった。より中立的な「ユニット」に置き換えることで、オステオパシーは生物医学の枠組みに収まりやすくなりました。
その判断には、成果がありました。アメリカのオステオパシー医(D.O.)は今、全州で医師として認められています。多くの人にオステオパシーが届いたのは、この選択があったからです。私たちはそれを否定しません。
ただ、その過程でこぼれ落ちたものもありました。かたちと動きを切り離さない「Form」という見方。原因から結果へという向き。そして、身体を眺めるときの順序です。OQが原典に戻って読み直しているのは、この3つを拾い直したいからです。
出典:A.T. Still『Philosophy of Osteopathy』(1899)、『The Philosophy and Mechanical Principles of Osteopathy』(1902)/カークスビル・コンセンサス宣言(1953、1997改訂)
なぜOQはこの話をするのか
4つの原則を掲げている院はたくさんあります。それが悪いとは思っていません。教える言葉としてよくできていますし、私たちも説明で使うことがあります。
私たちが気をつけているのは、それをスティルの言葉として紹介しないことだけです。1953年にまとめられたものは、そう書く。スティルが書いたものは、スティルの言葉として書く。区別しておかないと、100年かけて何が変わったのかが見えなくなってしまいます。
そして、原典に戻ることは懐古趣味ではありません。スティルが残したのは結論ではなく、身体に対する問いの立て方でした。解剖学も生理学も、彼の時代からずいぶん更新されています。OQでは、その問いの立て方を、進化医学や発生学といった今の知見と重ねて使っています。
この考え方は、施術で何が違うのか
抽象的な話に聞こえたかもしれないので、実際どう変わるのかを書きます。
痛いところから始めない
肩が痛くて来られた方の肩に、初回はほとんど触らないこともあります。結果が出ている場所と、それを生んだ場所は、しばしば離れているからです。
昔のことをうかがう
身体はレンガのように、起きたことを順に積み上げていきます。10年前の捻挫、出産、手術、長く続いた姿勢。今のかたちは、その積み重ねの結果です。だから問診で、症状と関係なさそうな過去をおうかがいします。
動きを見る
歪みの有無だけを見るのではなく、そこで何が滞っているのかを診ます。妨げているものを見つけて取り除き、本来の働きが戻る環境を整える。これがOQの基本的な考え方です。
よくあるご質問
「身体はユニット」という言葉は間違いなのですか?
間違いではありません。1953年にまとめられた、教育のための整理です。世界中の学校で使われていますし、わかりやすい表現だと思います。ただ、スティル本人が書いた言葉ではないので、OQでは出典を分けて書くようにしています。
スティルの考え方だと、施術は何が違うのですか?
原因と結果の向きを追うところが違います。症状の出ている場所から始めるのではなく、それを生んだ場所を探します。そのため、痛いところ以外に触れる時間が長くなることがあります。
100年以上前の考え方が、今も通用するのですか?
スティルの解剖学や生理学の知識は、当然ながら今より限られていました。私たちが受け継いでいるのは知識そのものではなく、身体への問いの立て方のほうです。それを現在の解剖学や進化医学と重ねて使っています。
他の院と説明が違うようですが、どちらが正しいのですか?
対立しているわけではありません。4つの原則を紹介している院とOQで、内容が食い違っているのではなく、OQはその原則がいつ誰によって整理されたのかを併記している、という違いです。
京都オステオパシーセンターOQは医療機関ではありません。病気の診断や薬の処方は医師が行います。気になる症状がある場合は、まず医療機関を受診してください。オステオパシーはそのうえで、身体の環境を整える手段としてご利用いただくものです。
まずは一度、ご相談ください
どこから手をつけるべきか、お身体を診てからお話しします。ご予約やご質問は、こちらからお気軽にどうぞ。
京都オステオパシーセンターOQ / 京都市中京区七軒町466(阪急大宮駅 徒歩2分)
受付 9:00〜22:30(21:30最終受付)/ TEL 075-822-3003
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✍️ 執筆:坂田 雄亮(院長)BSc(Ost), M.I.C.O.
Swansea University, Wales, UK にてオステオパシー学士号を取得。EVOST(オステオパシー領域の進化医学)修了。The Institute of Classical Osteopathy(英国)修了。Cranial Academy(USA) 40時間頭蓋プログラム修了。はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格)。臨床経験25年以上。2007年2月に京都オステオパシーセンターOQを開業。A.T.スティルの原典研究を続けながら、小児・妊婦・婦人科・内臓・自己免疫・皮膚領域の施術を担当。
※国家資格は経歴として記載しているものです。OQでご提供する施術はオステオパシーのみで、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧は行っておりません。