閉経するメスは、地球上でほぼヒトとシャチだけです。
これは非常に奇妙なことです。進化の観点から言えば、繁殖能力は「生存する理由」のひとつ。閉経してそれを失うことを、自然選択はなぜ残したのか。
おばあさん仮説——更年期の進化的意味
1997年、人類学者のKristen Hawkesは「おばあさん仮説(Grandmother Hypothesis)」を提唱しました。
仮説はこうです。閉経後の女性が自分では産まなくなる代わりに、娘や孫の育児・食料調達を手伝うことで、自分の遺伝子(娘・孫を通じて)をより多く後世に残せる。繁殖をやめて「おばあさん」として貢献する方が、老年まで無理に産み続けるより遺伝的に有利だった、という考えです。
ハドザ族(タンザニア)などの狩猟採集民の研究が、この仮説を支持しています。祖母が育児に関わっている家庭では孫の生存率が高い。
更年期症状は「移行」のコスト
閉経は「ホルモンが突然ゼロになる」のではなく、数年〜10年かけて段階的にエストロゲンとプロゲステロンが低下していく移行プロセスです。
この移行期に起きる症状(ホットフラッシュ、不眠、気分の変動、関節痛)は、ホルモン変動に対する身体の適応プロセスのコストです。長い繁殖期間のためにエストロゲンに最適化されてきた骨・血管・神経・皮膚が、新しいホルモン環境に「再調整」される過程で出る症状です。
現代でこの症状が強い理由のひとつは、ここでも月経回数3倍化との関係があります。500回の月経でエストロゲンに深く暴露されてきた身体が、その環境から離脱するときの落差が大きくなっています。
OQが更年期の方に関わるとき
更年期に増えやすい症状——肩こり・腰痛・関節痛・不眠・むくみ——に、OQは何を見るか。
エストロゲンの低下は結合組織の柔軟性に影響します(コラーゲン合成の低下)。骨盤底・骨盤周囲・脊椎周囲の筋膜が硬くなりやすい。同時に自律神経のバランスも変化しやすく、睡眠と体温調節のリズムが乱れる。
「更年期だから仕方ない」ではなく、「ホルモン移行期に身体がどんな変化をしているかを読み取り、その移行をより少ない消耗でこなす」手伝いができます。
まとめ
更年期は病気ではありません。進化が意図的に選んだ「おばあさん」への移行です。症状は移行のコストですが、「衰え」ではなく「再調整」。そう見ると、更年期との付き合い方が少し変わるかもしれません。
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