チンパンジーは肩こりになりません。
犬も猫も馬も、慢性的な肩の緊張でクリニックを訪れることはない。
なのになぜ、人間だけがこれほど肩に悩まされるのか。
「姿勢が悪いから」「デスクワークが長いから」、それは間違いではありません。でも、それだけでは答えになっていない。肩こりが繰り返す本当の理由は、もう少し深いところにあります。
4kgの頭を「渎」になった背骨が支えている
人間の頭の重さは約4〜6kg。ボウリングの玉と同じくらいです。
四足歩行の動物は、背骨が水平の「橋」として頭を前から支えます。筋肉への負担はほぼゼロ。ところが人間が直立二足歩行を始めたとき、この橋は「渎」になりました。垂直に立った背骨の上に、頭が乗っかる構造です。
これで前傾みが少し増えるたびに、首と肩の筋肉が懸命に引き止めなければならない。
前傾姿勢が5度になるだけで、首にかかる負荷は約18kg。スマートフォンを見るときの一般的な角度(45〜60度)では、50〜60kg相当の負荷が首にかかるという計算があります。
この構造は、設計上の欠陥ではありません。直立二足歩行で手の自由を得るための、進化上のコストです。
なぜ「二重に」こるのか
肩こりには、実は二つのミスマッチが重なっています。
ひとつ目は設計上のトレードオフ。前述の通り、直立になったことで頸部と肩帯の筋肉に慢性的な負担が生まれました。これはチンパンジーには存在しない、ヒト特有のコストです。
ふたつ目は現代環境とのミスマッチ。この「もともと負担のかかりやすい設計」のまま、石器時代には存在しなかった環境に1日8時間以上おかれています。40cm先の画面を同じ角度で凝視し続ける。全身をほとんど動かさずに過ごす。
人間の頸部と肩は、多様な方向に適度に動きながら使うことを前提に設計されています。「静止して一点を見続ける」という状況は、その設計書に存在していません。
マッサージで楽になっても、またすぐ戻る理由
マッサージを受けると気持ちいいし、終わった直後は確かに楽になる。でも数日すると戻る。
これは、筋肉の緊張(近接的な原因)にアプローチしているからです。一時的に筋肉をゆるめることはできても、「なぜこの人にこのパターンで緊張が生まれ続けるのか」には触れていない。
その背景には、頸部だけでなく呼吸のパターン、内臓の位置と張り、骨盤の傾きと脊椎全体のバランスがあります。
OQが肩こりを診るときに見ていること
肩こりで来られた方の斜角筋だけを踏んで届けるわけではありません。
首・肩・胸椎周辺だけでなく、呼吸、内臓の動き、骨盤の底面の状態などを全体的に評価します。
設計上の制約(軸1)と、現代環境での使い方(軸2)。その両方を踏まえながら、「この人の体は今、何を場所に記憶しているか」を読み取ることが、治療の出発点です。
まとめ
肩こりは、あなたの姿勢が悪いからでも、努力が足りないからでもありません。
直立二足歩行という300万年前の選択と、デスクワークという数十年前から始まったライフスタイルが、あなたの頸と肩の上で衝突している。それがこんなに治りにくい理由のひとつです。
「またこってきた」と思ったとき、少しだけ別の目で自分の体を見てもらえたら嬉しいです。
このブログは「OQ進化医学コラム」シリーズです。
→ 進化医学から見る人体(シリーズ一覧)
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