脳卒中後のご家族へ——知っておいてほしいこと

「脳卒中で倒れた家族が、まもなく退院します。これからどう支えればいいでしょうか」
「もう病院でのリハビリは終わりと言われましたが、まだ良くなれるのでしょうか」
「父を介助していたら、私の腰がおかしくなってしまいました」

脳卒中を経験された方のご家族から、こうしたご相談をいただきます。ご本人を支える日々、不安と葛藤、そしてご自身の心身の疲れ——そのすべてが、現実です。

私は副院長の大村颯太です。京都オステオパシーセンターOQで、脳卒中後の自費リハビリ・歩行分析・下肢の問題を専門に診ています。今日は、脳卒中後のご家族に知っておいてほしいことを、専門家として、そして一人の生活者として、お話しします。

目次

「退院=リハビリ終了」ではありません

多くのご家族が、退院時にこんな言葉を聞かれます。「これ以上の機能改善は難しいので、現状維持が目標です」「もうリハビリは終わりです」——そして、戸惑います。「本当にここで終わりなのか?」と。

正直にお伝えします。「退院=改善の終わり」ではありません

病院の回復期リハビリには、保険制度上の期限(一般的に発症から180日)があります。これは医療制度の都合であって、医学的に「もう変わらない」と決まったわけではありません。実際、近年の神経科学研究では、脳の可塑性(neuroplasticity)——脳が再編成し変化する能力——は、発症から何年経っても残っていることが繰り返し示されています。

2020年に発表されたアメリカ理学療法学会の臨床ガイドライン(Hornby et al.)でも、慢性期(発症6ヶ月以降)でも、適切な刺激と練習があれば歩行能力が改善することが強く推奨されています。「もう変わらない」のではなく、「変わるための適切な刺激が日常から減ってしまっている」——これが、退院後の停滞の正体です。

退院後の選択肢として、デイサービスでの維持リハビリ、訪問リハビリ、外来リハビリ、そしてOQのような自費リハビリ機関——様々あります。ご本人とご家族が「もっと良くなりたい」と思うなら、その願いを支える環境は、必ず作れます。

介助の3つの原則

ご家族から最もよくいただく質問が、「どこまで手伝えばいいですか?」です。介助についての考え方を、3つの原則でお伝えします。

① 「できることは自分でやってもらう」

ご家族の優しさから、つい全部やってあげたくなります。でも、できることを代わりにやり続けると、その能力は失われていきます。これは医学的に立証された事実です。

「廃用症候群」という言葉があります。使わない機能は、思った以上に早く衰えます。逆に言えば、毎日少しずつでも自分でやり続けると、機能は維持され、時には改善するということです。

「時間がかかるから手伝った方が早い」という日もあるでしょう。でも、可能なら「ご本人が自分でやる時間」を、毎日の生活に組み込む——これが、長期的な機能維持の鍵です。

② 「やる気が出る環境」を作る

リハビリのモチベーションは、本人だけの責任ではありません。環境の影響がとても大きい。

  • 達成しやすい小さな目標を一緒に設定する(「庭まで歩く」「洗濯物を畳む」)
  • できたことを言葉にして承認する(「今日は昨日より長く立っていられたね」)
  • 外出機会を作る(社会との接続が脳への刺激になる)
  • 趣味・楽しみを生活に戻す(料理・音楽・園芸など)

リハビリは「義務」になると続きません。「やってみたい」「楽しい」が混じった生活の中に、自然と機能訓練が組み込まれている状態が理想です。

③ 「危険なときだけしっかり手を出す」

転倒・誤嚥・お風呂での溺水——脳卒中後の方は、これらのリスクが健常な方より高くなります。普段は見守りベースで、危険な場面ではしっかり手を出す。このメリハリが大事です。

住環境の見直し(手すり・段差解消・滑り止め)、福祉用具の活用(歩行器・杖・浴室椅子)も、「安全のためのインフラ」として遠慮なく取り入れましょう。これらは「依存」ではなく、「自立を支える道具」です。

ご家族自身のケアも、忘れずに

ここはとても大事なところです。介護をするご家族自身が、体と心を壊してしまう——このケースは珍しくありません。

研究でも、脳卒中介護者の約30〜50%が抑うつ・不安症状を呈し、慢性的な身体症状(腰痛・肩こり・睡眠障害)を抱える率が高いことが報告されています(Cheng 2018, Pucciarelli 2017)。「介護者の健康は、本人のリハビリと同じくらい大切」——これは私が現場で何度も実感していることです。

ご家族自身が気をつけてほしいこと:

  • 介助動作の腰痛予防——膝を曲げる・体を近づける・できるだけ道具を使う
  • レスパイトケアを使う——一時的にプロに任せて、自分の時間を作る(罪悪感は不要です)
  • 同じ立場の方とつながる——家族会・サポートグループは想像以上に救いになります
  • 専門家を頼る——心の不調は精神科・心療内科、体の不調は整形外科や私たちのような施術院へ

OQでも、ご本人と一緒に来院されるご家族のケアを行っています。介助で痛めた腰・肩、緊張で硬くなった全身——どうぞお気兼ねなくご自身の不調も話してください。

「治る」と「変わる」を分けて考える

脳卒中後の方のご家族とお話しするとき、私はよく「治る」と「変わる」を分けて考えましょうとお伝えします。

「発症前の状態に完全に戻る(=治る)」が叶わないケースはあります。でも、「今より良くなる(=変わる)」は、ほぼすべての方に当てはまります。

  • 10m歩けなかった人が、50m歩けるようになる
  • 家の中だけだった行動範囲が、近所のコンビニまで広がる
  • 食事が左手だけで食べられていたのが、両手で食べられるようになる
  • 会話の中で「あの…えっと…」が減って、流暢に話せるようになる

こうした小さな「変わる」の積み重ねが、ご本人とご家族の生活の質を確実に上げていきます。

OQでの脳卒中後アプローチ

OQでは、急性期・回復期病院でのリハビリを終えた方の自費リハビリをサポートしています。

  1. 歩行・動作分析——どこに改善の余地があるかを見極める
  2. オステオパシー手技——筋緊張・関節制限・神経系の過緊張を整える
  3. 必要に応じてインソール——足部の感覚入力と荷重を整える
  4. 課題特異的トレーニング——具体的な目標(外出・趣味・旅行)に合わせた動作練習
  5. ご家族への介助指導——日常での適切なサポート方法をお伝えする
  6. ご家族のケア——介助で疲れた体への施術も並行して行います

「もう病院でのリハビリが終わった」「これから先どうすればいいか不安」——そういう時期こそ、ぜひ一度ご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 介護保険サービスとどう使い分ければいいですか?

A. 介護保険のデイサービス・訪問リハビリは、機能維持と日常生活の支援に向いています。一方、OQのような自費リハビリは「もっと良くなりたい」「特定の目標がある」方に向いています。両者は対立するものではなく、併用が現実的です。週に何回かは介護保険サービス、月に1〜2回はOQで集中的に自費リハビリ——という方も多いです。

Q. 本人がリハビリに前向きでないときは?

A. これは本当によくある悩みです。発症後はうつ状態になる方も多く、無理に「頑張って」と言うと逆効果になることがあります。まずは「やりたいこと」「楽しいこと」を生活に戻すことから始めましょう。「リハビリ」という言葉を使わず、「散歩に行こう」「孫に会いに行こう」と誘う方が、結果として体を動かすことにつながるケースが多いです。うつが強い場合は、まず精神科・心療内科の受診を優先してください。

Q. 高次脳機能障害があります。どこに相談すれば?

A. 高次脳機能障害(記憶・注意・遂行機能の障害)は、専門の作業療法士・言語聴覚士・神経心理士のサポートが中心になります。OQの主な対応領域は身体機能(特に歩行・下肢)なので、こちらは適切な専門機関を紹介させていただきます。お住まいの地域の高次脳機能障害支援拠点機関に連絡されるのが、最も確実な入り口です。

Q. 介助している私の腰がおかしいです。どうすれば?

A. ご家族の腰痛は本当によく見ます。OQでも、ご本人と一緒にご家族のケアをしているケースは多いです。介助動作の見直し(移乗のテクニック、ベッドの高さ、福祉用具の活用)と、痛めた組織への施術を組み合わせると、比較的早く楽になります。「自分はあと回し」と思わず、早めに対処してください。介護は長期戦です。

最後に

脳卒中という病気は、ご本人の人生だけでなく、ご家族の人生も大きく変える出来事です。

「どうすれば良いかわからない」と感じている時、一人で抱え込まないでください。医療機関、介護保険サービス、自費リハビリ機関、家族会、私たちのような施術院——あなたとご家族を支える仕組みは、思っているよりたくさんあります。

そして、ご家族ご自身の体と心も、どうか大切にしてください。あなたが元気でいることが、ご本人にとって最高のサポートでもあります。

OQで、ご本人もご家族も、お待ちしています。

参考文献

本記事の脳卒中後の在宅生活支援・介護者の健康に関する内容は、以下の文献を参考にしています。

書籍

  • Carr, J., & Shepherd, R. Neurological Rehabilitation: Optimizing Motor Performance (2nd ed.). Churchill Livingstone, 2010.
  • Shumway-Cook, A., & Woollacott, M. H. Motor Control: Translating Research into Clinical Practice (5th ed.). Wolters Kluwer, 2017.
  • Stokes, M., & Stack, E. Physical Management for Neurological Conditions (3rd ed.). Churchill Livingstone, 2011.
  • Doidge, N. The Brain That Changes Itself: Stories of Personal Triumph from the Frontiers of Brain Science. Penguin Books, 2007.(邦訳『脳は奇跡を起こす』)
  • Earls, J. Born to Walk: Myofascial Efficiency and the Body in Movement (2nd ed.). North Atlantic Books, 2020.

研究論文・臨床ガイドライン

  • Hornby, T. G., Reisman, D. S., Ward, I. G., et al. (2020). Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke. Journal of Neurologic Physical Therapy, 44(1), 49–100. https://doi.org/10.1097/NPT.0000000000000303
  • Bakas, T., Clark, P. C., Kelly-Hayes, M., et al. (2014). Evidence for stroke family caregiver and dyad interventions: a statement for healthcare professionals from the American Heart Association and American Stroke Association. Stroke, 45(9), 2836–2852. https://doi.org/10.1161/STR.0000000000000033
  • Pucciarelli, G., Vellone, E., Savini, S., et al. (2017). Roles of Changing Physical Function and Caregiver Burden on Quality of Life in Stroke. Stroke, 48(3), 733–739. https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.116.014989
  • Cheng, H. Y., Chair, S. Y., & Chau, J. P. C. (2018). Effectiveness of a strength-oriented psychoeducation on caregiving competence, problem-solving abilities, psychosocial outcomes and physical health among family caregiver of stroke survivors. International Journal of Nursing Studies, 87, 84–93. https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2018.07.005
  • Quinn, K., Murray, C., & Malone, C. (2014). Spousal experiences of coping with and adapting to caregiving for a partner who has a stroke: a meta-synthesis of qualitative research. Disability and Rehabilitation, 36(3), 185–198. https://doi.org/10.3109/09638288.2013.783630

※ 本記事は一般向けの情報提供を目的としています。脳卒中後の症状や治療方針は個人差が大きく、必ず主治医・担当療法士と連携の上で取り組んでください。介護保険サービスの利用については、お住まいの地域包括支援センターにご相談ください。


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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後の自費リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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この記事を書いた人

大村颯太
・理学療法士
・健康科学修士
・発達ケア・アドバイザー上級

Sota Omura
・Physiotherapist
・Master of Health Science
・JEFPA Certified Foot Care Advisor
・Developmental Care Advisor

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