「赤ちゃんの頭が少し左右差があります。吸引分娩だったんですけど、影響はありますか?」
こういった相談をよくいただきます。「令和生まれだから大丈夫」と言われたけれど、何かできることはある?とお考えの方もいます。
スワープの研究の中で、私が特に印象に残っている記述があります。「胎児の脳は単に成長するだけでなく、分娩のタイミングそのものを制御している」というものです。

胎児の脳が「今出ていい」のサインを出す
分娩はお母さんの体が一方的におこなうもの、と思っている方が多いかもしれません。実際には赤ちゃん自身の脳——特に視床下部——が分娩の引き金を引いています。
機序はこうです。胎児の視床下部が血糖値の低下を感知すると、ストレス系を起動させ、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌させます。このCRHが大量に子宮に到達することで、子宮の収縮が始まる——これが陣痛の始まりです。
つまり赤ちゃんの脳が「今が出時」と判断したときに、分娩が始まるのです。
難産は胎児脳発達の「最初のサイン」かもしれない
スワープが指摘する興味深い説があります。難産は脳損傷の原因ではなく、胎児脳の発達異常の「最初の現れ」である可能性がある、と。
過度なストレス暴露、栄養不足、酸素欠乏——胎児期に視床下部の発達が妨げられると、分娩シグナルの発信自体が不安定になりやすくなります。難産や長時間分娩は、その結果として生じることがある——言わば、子宮内で赤ちゃんがすでに苦労していたサインかもしれない、という解釈です。
これは「難産だったから赤ちゃんが不安定」という因果関係を逆転させる話ではありません。また、帝王切開分娩だった赤ちゃんにすべて当てはまる話でもない。ほとんどの赤ちゃんは健康です。
生まれ方が体に残すこと
分娩は、赤ちゃんの体にとって大きな身体的体験です。骨盤の形状に応じて回旋しながら降りてくる過程で、高度な圧縮と回転の力が骨盤・頭蓋・脊椎に加わります。この動きが正常に機能していれば、赤ちゃんの頭蓋骨は形を変えながら整形されていきます——生まれたての頭が細長く見えるのはこのためです。
しかし吸引分娩、帝王切開、長時間分娩などでこのプロセスが不完全に終わると、頭蓋骨・脊椎・骨盤にそれなりの痕跡が生じることがあります。これが「頭の左右差」「授乳でやりにくい向きがある」「首の硬さが気になる」などの背景になることがあります。
📋 症例メモ(個人特定を避けた形で記載)
生後1か月・首の左側向きが苦手・授乳時に泣く
吸引分娩だった赤ちゃん。左を向くと泣き、左側からの授乳を嫌がる。首の左側に少し硬さがある。
評価では、左側頭蓋骨(側頭骨)の外回り制限、後頭骨左側の動きづらさが著明。吸引による頭蓋内の圧力分布が左片側に少し偏った状態。
初回:頭蓋骨(側頭骨・後頭骨)へのソフトなアプローチ。施術中に赤ちゃんが自然に右向きに回った。
2回目:左向きの授乳を受け入れるようになった。泣き込みが減った。
母親:「授乳が楽になった」
※症例は複数の事例を組み合わせた内容です。特定の患者さんを示すものではありません。
帝王切開分娩後の赤ちゃんへの影響
帝王切開分娩で生まれた赤ちゃんは、産道を通過しないため「骨盤による段階的な圧縮と回転」を経験していません。これが良いことでも悪いことでもなく、単純に「そういう経緯だった」ということです。
産道を通過しなかった分、脊椎の回転プロセスや頭蓋骨への圧縮の調整が完了していない状態で出生する場合があります。そのため、自律神経系や脊椎・頭蓋の状態を丁寧に評価することが大切になります。
「赤ちゃんの頭が少し左右差」を気にしているなら
「頭の左右差」「向きやすい方向と向きにくい方向がある」「左向きの授乳を嫌がる」「よく泣く」——こうしたサインは、分娩と出生の痕跡が体に残っている可能性を示していることがあります。
「小さいうちに自然に治る」ではなく、「今持っている資源で届けられるサポート」があるという発想を、相談の場でお伝えすることがよくあります。
赤ちゃんの頭蓋・脊椎・骨盤の状態を評価し、身体的な痕跡があればそれを部分的に解放することで、赤ちゃん自身の回復力が発揮しやすい状態を整えます。詳しくは赤ちゃんの頭のかたち・授乳困難ページもご参照ください。
執筆:坂田雄亮(院長)
参考:D.F.Swaab 著『We Are Our Brains』(2014)
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