糖尿病と足——「見えない傷」を作らないために

「糖尿病の血糖コントロールは続けているけど、足のケアまでは意識していなかった」
「主治医からフットケアの話を受けたが、具体的に何をすればいいか分からない」
「糖尿病があるけど、フットケア外来やオステオパシーは受けてもいいの?」

糖尿病と診断を受けた時、食事や血糖コントロールの話は医師から詳しく聞かれたはずです。でも、足のケアについて具体的な話をされた経験のある方は意外と少ないのです。実は、糖尿病が長くなると足は特別な注意が必要な部位になります。

私は副院長の大村颯太です。京都オステオパシーセンターOQで、足部・歩行・下肢の問題を専門に診ています。今日は、糖尿病のフットケアで「見えない傷」を作らないためのポイントをお伝えします。本記事は医療行為を代替するものではなく、必ず主治医の指導のもとでお読みください。

目次

「見えない傷」が怖い理由

糖尿病が進行すると、糖尿病性末梢神経障害で足の感覚が徐々に鈍くなります。これが怖いのは、本人が小さな傷や靴擦れ、火傷に気づかないことです(Boulton et al., 2008)。

  • 合わない靴で毎日歩いても、痛みを感じない
  • 熱すぎるお湯やカイロで低温やけどしても、熱さに気づかない
  • 爪切りで皮膚を傷つけても、翌日まで気づかない
  • 靴の中の小石や縫い目の突起が、足裏に傷をつけていても気づかない
  • 気づいた時には、傷が深くなり、感染を起こしている

さらに、糖尿病は下肢の血流も低下させるため、できた傷が治りにくく、感染を起こしやすい。最悪の場合は糖尿病性足潰瘍 → 壊疽 → 切断に至ることもあります(Armstrong et al., 2017)。

だからこそ糖尿病のフットケアでは、毎日の足の観察圧のかかり方の調整が命綱になるのです。

毎日やっていただきたいこと

シンプルですが、以下を毎日の習慣にしてください。これだけで、重大な事態の多くは予防できます(国際糖尿病連合 IWGDF Guidelines 2023)。

  1. 足の裏・指の間を毎日目で見る(鏡を使ってもOK・家族にも見てもらう)
  2. 赤み・傷・まめ・爪の変化に気づいたら、その日のうちに主治医に連絡(写真を撮っておくと伝わりやすい)
  3. 靴の中に手を入れて、小石や縫い目の突起を確認してから履く
  4. 靴下は縫い目が薄いもの・締め付けないものを選ぶ(白地が血や滲出液に気づきやすい)
  5. 爪は角を落とさず、まっすぐ切る(深爪・斜め切りは傷の元)
  6. お湯の温度は必ず手で確認(足の感覚は鈍くなっていることを前提に)
  7. 裸足で外を歩かない・室内でも踵が露出しないスリッパや室内履きを使う

「自分は感覚があるから大丈夫」と思っていても、感覚は本人が気づかないうちに少しずつ低下します。診断を受けた時から、習慣にしておくのが一番安全です。

「合わない靴」がいかに恐ろしいか

糖尿病の方の足潰瘍の原因として、不適切な靴は最大の要因の一つです。健常な方なら「ちょっと痛いな」で気づいて靴を変えるところを、感覚が鈍っているために何時間も履き続けてしまう。

  • つま先が当たっていないか
  • 幅は十分か(横アーチが崩れている方は特に)
  • かかとが浮いていないか
  • ソールは衝撃を吸収するか
  • 新しい靴は短時間から慣らす

糖尿病用フットウェア、医療用インソールなど、専門の選択肢もあります。義肢装具士・フットケア外来との連携で、より適合性の高い対応ができます。

OQでできること・できないこと

糖尿病の方のフットケアは、主治医・看護師のフットケア指導が中心です。OQはその枠組みに体全体を診る視点を加える役割と考えてください。

OQでできること

  1. 足部の配列と歩行時の圧分布の評価——どこに圧が集中して傷ができやすいかを把握
  2. 靴とインソールの適合チェック——主治医・装具士と情報共有
  3. タコ・変形のできやすい部位の圧分散——構造から圧を逃がす
  4. ふくらはぎから下肢全体の循環改善——筋ポンプを働かせる手技
  5. 歩き方の質の改善——筋ポンプの再起動で末梢循環をサポート

これらは血糖コントロールの補助ではなく、合併症を起こしにくい足の環境を整える仕事です。

OQではできないこと(医療機関の役割)

  • 潰瘍・感染・壊疽の治療
  • 胼胝(タコ)・鶏眼(魚の目)の医療的切除
  • 糖尿病性末梢神経障害そのものの治療
  • 血流障害の診断・治療
  • 爪甲鉤彎症など病的な爪の処置

大切なお願い

糖尿病の方は、必ず主治医と相談の上でご来院ください。以下に該当する方は、医療機関での治療が最優先です。

  • 重度の末梢神経障害がある方
  • 既に足に傷・潰瘍・水疱・感染徴候がある方
  • 下肢動脈硬化症(PAD)などの血流障害の診断を受けている方
  • 透析中の方
  • 過去に足趾切断・足潰瘍歴のある方(ハイリスク群)

OQは医療機関と連携したケアを大切にしており、主治医の指示を超える判断はしません。「主治医に相談したら、こう言われた」「フットケア外来でこの状態と説明された」という情報を持ってきていただけると、最も安全に協働できます。

よくあるご質問

Q1. 糖尿病でもオステオパシーは安全ですか?

合併症の状況によります。軽度〜中等度の血糖管理ができている方で、足に活動性の傷や感染がなければ、慎重な手技を選んで対応可能です。一方、ハイリスク群(潰瘍歴・透析・重度神経障害など)の方は、まず医療機関のフットケアを優先してください。初回時に糖尿病の経過・主治医の方針・現在の合併症の有無を必ず確認した上で、安全な範囲を判断します。

Q2. タコや魚の目を自分で削ってはいけないと聞きました。本当ですか?

本当です。糖尿病の方は、タコ・魚の目を自分で削らないでください。感覚が鈍っていると削りすぎても気づかず、出血・感染・潰瘍に発展することがあります。市販のサリチル酸入り絆創膏も、糖尿病の方には推奨されません。タコ・魚の目がある場合は、皮膚科または糖尿病フットケア外来で対応してもらってください。

Q3. 足が冷えるのですが、湯たんぽや電気毛布を使っても大丈夫ですか?

糖尿病の方は低温やけどのリスクが高いです。感覚が鈍っているため、湯たんぽ・電気毛布・電気あんか・カイロが直接皮膚に触れる状態で何時間もいると、本人が気づかないうちに深いやけどになることがあります。湯たんぽは布で何重にも包む、就寝前にベッドを温めて入眠時には外す、電気毛布は就寝前に消す、などの工夫が必要です。冷え対策は外から温めるより、ふくらはぎを動かして血流を上げる方向のほうが安全です。

Q4. 家族として何ができますか?

大きな力になります。毎日の足の観察(本人だけでは見落としやすい)を一緒にする、靴の中をチェックする、足の写真を時々撮って変化を比べる——こうしたサポートは、ハイリスクの方ほど重要です。本人が高齢で視力が低下していると、足の小さな変化に気づけないことがあります。「足を見せて」と声をかけることが、最大の予防になります。

最後に

夜、お風呂上がりに足を観察する——これだけで、多くの合併症は早期発見できます。「昨日と違う」と気づけるのは、毎日見ているご本人(とご家族)だけです。

糖尿病でも安心して歩き続けるために、できる準備があります。主治医の指導と並行して取り組める範囲があれば、ご相談ください。

参考文献

書籍

  • Bowker, J. H., & Pfeifer, M. A. Levin and O’Neal’s The Diabetic Foot (8th ed.). Mosby, 2017.
  • Earls, J. Understanding the Human Foot: An Illustrated Guide to Form and Function for Practitioners. North Atlantic Books, 2021.
  • Frykberg, R. G. The High Risk Foot in Diabetes Mellitus. Churchill Livingstone, 1991.
  • Kelikian, A. S., & Sarrafian, S. K. Sarrafian’s Anatomy of the Foot and Ankle: Descriptive, Topographic, Functional (3rd ed.). Lippincott Williams & Wilkins, 2011.
  • Coughlin, M. J., Saltzman, C. L., & Anderson, R. B. (Eds.). Mann’s Surgery of the Foot and Ankle (9th ed.). Saunders, 2014.

研究論文・臨床ガイドライン

  • Bus, S. A., van Netten, J. J., Lavery, L. A., et al. (2020). IWGDF guidelines on the prevention of foot ulcers in persons with diabetes. Diabetes/Metabolism Research and Reviews, 36(S1), e3269. https://doi.org/10.1002/dmrr.3269
  • Armstrong, D. G., Boulton, A. J. M., & Bus, S. A. (2017). Diabetic foot ulcers and their recurrence. New England Journal of Medicine, 376(24), 2367–2375. https://doi.org/10.1056/NEJMra1615439
  • Boulton, A. J. M., Armstrong, D. G., Albert, S. F., et al. (2008). Comprehensive foot examination and risk assessment. Diabetes Care, 31(8), 1679–1685. https://doi.org/10.2337/dc08-9021
  • Schaper, N. C., van Netten, J. J., Apelqvist, J., et al. (2020). Practical guidelines on the prevention and management of diabetic foot disease. Diabetes/Metabolism Research and Reviews, 36(S1), e3266. https://doi.org/10.1002/dmrr.3266
  • American Diabetes Association. (2023). 12. Retinopathy, neuropathy, and foot care: Standards of Care in Diabetes—2023. Diabetes Care, 46(Supplement_1), S203–S215. https://doi.org/10.2337/dc23-S012

※ 本記事は一般向けの情報提供を目的としており、医療行為を代替するものではありません。糖尿病の方は必ず主治医の指導に従い、足に異変(赤み・傷・水疱・色調変化・痛み・しびれ・冷感など)を感じたら、すぐに糖尿病外来またはフットケア外来を受診してください。


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執筆:大村颯太(京都オステオパシーセンターOQ 副院長・2階担当)
専門:脳卒中後の自費リハビリ/下肢症状(股関節・膝)/腰痛/歩行分析/インソール

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この記事を書いた人

大村颯太
・理学療法士
・健康科学修士
・発達ケア・アドバイザー上級

Sota Omura
・Physiotherapist
・Master of Health Science
・JEFPA Certified Foot Care Advisor
・Developmental Care Advisor

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